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5-泣かないで愛しいひと(8)
双子もオーダーして、お好み焼きを焼き始める。創くんがチーズ、幸くんがキムチだ。
「お前ら初っ端からそれは邪道だぞ」
悠さんが眉をひそめて言う。
「俺の中ではこれが王道なんだからいいじゃんよ」
創くんが応える。
「はあぁ、しばらく見ねぇうちに口ごたえするようになっちまって。嘆かわしいぜ」
「悠が家に帰ってこないのがいけないんじゃん。顔見るの正月ぶりじゃん。もっと帰って来てよ」
「そうだよ、定期的に帰ってきてくんないと、悠のベッド、悠の匂いしなくなっちゃったんだよ」
いきなり飛び出す変態発言。
「悠のベッドなのに、幸の匂いがするもんなー」
気をつけろ 変態は急に 止まれない
思わず一句詠んでしまうほどに、変態方向へぐいぐい舵がきられ始めた。
ここまで行き過ぎた兄弟愛は初めて見る。
「やめてくれ、もうこの店来れなくすんな」
悠さんが顔をしかめてたしなめた。
「悪いな、変な弟らで」
そう言う悠さんも、確かこの双子でショタコンに目覚めたんじゃなかったか。
「いいご兄弟じゃないですか」
変態同士で。
「颯人、今分かんねぇけどなんか嫌味言っただろ」
「いいえ?とんでもないです」
お好み焼きが四枚焼き上がって、一斉に食べ始める。
「キムチ、んまっ」
「あれ、悠もチーズじゃん。俺と同じ!」
「半分だけな。こっちは紅ショウガと豚」
悠さんがお好み焼きの断面を見せると、創くんがむくれた。
箸を握りしめた拳でテーブルを叩く。
「ちょっと、なんで悠、越野さんと半分こしてんの。越野さんとどういう関係なの」
小姑だ。小姑がいる。
「だァからマネージャーだっつったろ」
そういえば、創くんは前髪を上げてピンで留めている。
いつぞやの悠さんと一緒だ。懐かしい。
「だって悠、今までマネージャーさんとそんなに仲良くしてなかったじゃん。山岡さんとだっていっつも喧嘩してたし。なんで越野さんとはそんな仲良いの?」
「いや、こっちの方が普通だろ?今までのが使えなさ過ぎたんだよ。良太も含めて」
「なんか怪しい。越野さん美人だし」
「そりゃまあ顔で選んだからな」
ちょっと、聞き捨てならないセリフが聞こえましたけど!
あの三人の中から選んでくれたのは、多少なりとも俺の熱意を感じとってくれたからだと思ってたんですけど!
顔で選んだ?
「悠さん?どういう意味ですか?」
「ちょっ、ちょっと、なんで颯人怒ってるんだよ。今俺褒めただろ?」
「顔で選んだって。あの短時間で転職決めた熱意をかってくれたんじゃないんですか?」
「お、おい落ち着けって。……もちろんそれもある。それもあるけど、あの時の俺としてみたら、三人の情報がほぼなかったわけだ。履歴書だって、細かく性格とか能力にまで至って書かれてるわけじゃなし。颯人の熱意は伝わってきたけど、その場限りかもしれねぇだろ。そしたらあとはほぼ毎日顔つき合わせるわけだ、顔立ちが好みな方を選ぶのが無難かなって思うじゃねぇか」
はあぁぁ。
今は悠さんを、その……個人的に好きだから、そんなに怒る気もしないけど。
そうだったんだ……顔で、ね……。
ふぅん。
「なあってば、颯人ぉ。ごめんて。そんなため息までつくなよぉ」
幸くんが口を開いた。
「悠必死じゃん。なんで?絶対越野さんのこと好きでしょ」
「ちょっとお前ら黙ってろ!今ピンチなの見てわかんだろうが!!」
いつの間にか隣の二人組が食べ終わって会計している。
「槙野さん、スーパー寄りますからね」
「分かってるよ。鈴と珠に土産買うんだろ」
「はい!ふふ、何だったら喜んでくれるかなぁ」
「最近珠が太ってきたぞ。おやつは控えた方が――」
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