その後もしばらくお好み焼きを食べていた。 三枚目でお腹いっぱいになってしまったから、育ち盛りの男子高校生にお好み焼きが吸い込まれていくのを眺めていたのがほとんどだけど。 ようやく満足した創くんと幸くんが箸を置いて手を合わせた。 「あー、腹いっぱい。悠様、ごちそうさまです！」 「ごちそうさまです！」 「うむ。父さんと母さんによろしく言っとけよ」 すると創くんがちらっと俺を見て言った。 「うん。美人の彼氏ができてたって言っとく」 「それは言わなくていい」 ついでに俺までご馳走になって、外に出る。 「悠、今日一緒に家帰ろうよ」 幸くんが悠さんの手をひいて誘う。 「んー、まだ飲み足りねぇから、また今度な」 「そっかー。んじゃ創、帰ろ」 創くんと幸くんが駅の方に歩いていく。 「まっすぐ帰れよ！」 悠さんが手を振ると、創くんと幸くんが手を繋いでジャンプしながらその三倍くらい手を振り返してきた。 本当に、元気で仲がいい兄弟だ。 悠さんもいいお兄さんしているようだし。 二人の姿が見えなくなると、悠さんはくるりと向きを変えて歩き出した。 「颯人はまだ飲むか？」 「甘いカクテルなら少し」 「んじゃ、バー行こ」 悠さんは俺の手を引くと、数軒隣のビルの階段を下りていく。 地下一階のドアを開けると、ジャジーなピアノの音色に包み込まれた。 振り返ると石壁に鷲のシルエットと『アルタイル』の文字が彫られている。 カウンターについて、適当にオーダーした。 「創くんも幸くんも、素直でいい子ですね」 「そうか？素直なのだけが取り柄だな。うるせぇし。そういえば、颯人のとことは真逆だな」 「鏡花姉さんは恐怖政治を布きますから。逆らったら町内引き回しの上打首獄門です。悠さんみたいな優しいお兄さんが欲しかったです」 「俺だってそんな優しくねぇよ。面倒も見ないし」 出された見た目も美しいカクテルグラスに唇を触れる。 甘やかな味と香りが口から鼻に抜けていく。 「美味しいです」 「よかった」 「お好み焼きも美味しかったです」 「うん」 「今日はなぜか悠さんが格好よく見えます」 「今日は？今日も、の間違いだろ」 頬杖をついた悠さんが俺を見て優しく微笑む。 不覚にもちょっと心ときめいてしまった。 「今日はお好み焼きだったけどさ」 「はい」 「もっともっといろんなとこ行こうな。今度は邪魔者なしの二人で」 「ふふ。そうですね」 カウンターの端でひっそり指を絡めて、蜜のようなカクテルを口にしながら、甘い言葉を囁き合うのは、なんだか夜更けに見る幸せな夢のようだった。