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5-泣かないで愛しいひと(11)
「……んの野郎!!ふざけやがって!」
悠さんの怒声で目が覚めた。辺りは暗い。公園の中にいるようだ。
悠さんは……え?!喧嘩をしているようだ。
相手は誰だかわからない。バットのようなものを持っていて、振り回している。
悠さんはそれを避けては蹴りを入れている。
「何てことしやがる、クズが!!」
大きく振り回されたバットを避けた悠さんが一歩相手の懐に踏み込んで――思いきり右の拳で頬を殴りつけた。
命中したようだ。相手は頬を押えて血混じりの唾を吐くと、隙を見て一気に逃げ出した。
「二度とツラみせんじゃねぇ!!」
悠さんが吠える。途端に俺の頭がずきずき痛み出した。
何だっけ?どうしたんだっけ?
夜風が吹いて、俺の剥き出しの上半身を撫でていった。
ようやく自分の状況に気づいてぞっとした。
上半身裸で、ワイシャツは離れたところに落ちている。
スラックスと下着も脱がされて片足に引っ掛かっていてみっともない姿にされていた。
慌てて下半身だけでもと整えて、尻の違和感に気が付いた。
……また、犯されたらしい。
それに気づいたとたん、一気に気分が悪くなった。
吐きたいのを我慢して、放り出されたワイシャツとバッグを回収する。
「颯人!気がついたか、よかった」
悠さんが俺のところに戻ってくる。
ボタンのとんだワイシャツの代わりに悠さんが着ていたカーディガンを羽織らせてくれて、それでも、俺は悠さんの顔が見れなかった。
だってそうだろ?
誰にだか知らないが、犯された後のみっともない姿なんて死んでも誰にも見られたくないのに。
悠さんに見られるなんてなおさらだ。
「とりあえず、早く颯人の家に行こうぜ。いつまでもこんな胸糞悪いとこにいるこたぁねぇ」
悠さんが肩を抱いてくれそうになったが、俺は自分が惨めで、思わずそれを避けるように先に歩き出した。
目の前まで帰ってきたはずだったアパートにようやくたどり着いた。
鍵をあけて灯りをつける。
「邪魔するぜ」
リビングのソファに置いていた部屋着を着て、カーディガンを悠さんに返した。
「ありがと……っ!!」
しかし、口を開いた瞬間吐き気が込み上げてきて、礼もそこそこに俺はトイレに駆け込んで吐いた。
ちょっと吐いただけでは吐き気はおさまらず、結局胃の中身をすべて吐くことになった。
胃が空になってもまだ気持ちが悪い。
トイレを出ると洗面所に向かい、しつこいくらいに口の中をすすいだ。
いったんリビングに戻ると、悠さんが所在無げにソファに座っていた。
「少しは落ち着いたか?」
頷いて、悠さんの右手に赤いものを見つけてしまった。
「悠さん!右手!」
「ん、ああ。ちょっと切っただけ。大丈夫、大したことねぇよ。血も止まってる」
俺は収納から救急箱を取り出して、絆創膏をとった。
「絆創膏、貼りますから。あ、先に洗ってきてもらった方がいいのかな」
「そうだな、ちょっと借りるぜ」
傷は中指の関節で、おそらくさっき殴った時に相手の歯で切ったんだろう。
傷が浅くて、本当に良かった。
縫うことにでもなったら……考えただけでぞっとする。
悠さんが手を洗って戻ってきた。ソファに座ってもらって、傷口に絆創膏を貼った。
救急箱をしまうと、悠さんの方へ向き直った。
「すみません、ちょっと気持ち悪いのでシャワー浴びてきます」
「おう。ゆっくりしてきな」
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