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5-泣かないで愛しいひと(13)

そろそろ出て行かないと、悠さんが心配して見に来てしまう。 俺は諦めてシャワーを止め、浴室を出た。 バスタオルで体を拭い、洗濯したてのTシャツとハーフパンツを着る。 うん。これで全部元通りに、綺麗になった。そう自分に言い聞かせて悠さんのいる部屋に戻った。 「お待たせしました」 「ううん。勝手にテレビ見てた」 悠さんの座ってるソファに、少し離れて腰かける。 「なんで。もうちょっとこっち来いよ……あ、今は触られるの、嫌か?」 「そんなことないです。ただなんとなく」 俺は悠さんの隣に座り直した。 「助けに来てくれて、ありがとうございました」 しかし悠さんは苦い顔で首を振った。 「助けられてねーよ。全然間に合わなかった。すまん」 「いえ、追い払ってくれたじゃないですか。嬉しいです」 悠さんに体を預ける。 「なんで、気づいてくれたんですか?」 「駅に戻ってから、ホームで颯人に電話したんだよ。無事に帰れたかーって聞こうと思って。ていうかまだもうちょっと颯人の声が聞きたくて」 「はい」 「そしたら、呼び出し音鳴らしてもすぐ切られちまって。何か操作ミスか?って思って何回か鳴らしたけどどれもすぐ切られて。終いには電源切られたんだよ」 「……」 「別に喧嘩別れしたわけでもないのに、さすがにおかしいだろ?だから、もう一回颯人の家に行ってみたんだよ。そしたら、公園の横通った時に茂みから音がして、何だ?って思ったら白い手が見えて、ぎょっとした」 「……」 「まさかと思ったけどやっぱり颯人で、とっさに抱き起こしてたら後ろからあの野郎が殴りかかってきたってわけ」 「……そうだったんですか」 「だから、俺は何もできてない。あの野郎を一発殴っただけ。はは」 悠さんは乾いた笑いを溢して、向かい合った俺の肩に額をのせた。 「ごめんな。ごめん」 悠さんはそう言ったきり、顔を背けて黙ってしまった。いや……。 「悠さん、そんな、泣かないでください」 顔を背けて涙をこらえていた悠さんを、そっと胸に抱きしめる。 「ほんとにごめん……颯人を独りにしちゃいけないって分かってたのに。俺が馬鹿だった……。あと数十メートル一緒に歩いてればこんなことにはならなかったのに」 俺のためになんか泣かなくていいのに。 悠さんは優しすぎる。 「今日玄関まで送ってもらっていたとしても、きっと別の日に襲われるだけですよ。悠さんは何も悪くないです」 お願いだからその涙を俺のために流さないで。 流すなら、もっとまともな誰かに。 薄汚れた俺なんかじゃなくて。他のきれいな人のために流してあげてください。

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