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5-泣かないで愛しいひと(14)
「はやと?」
しばらくして、俺の腕の中で、悠さんが俺を呼ぶ。
「はい」
「ぎゅってしたい」
「どうぞ」
俺は抱擁を解いた。
座り直した悠さんが俺を抱きしめる。
「はぁ……ほっとする。もう颯人を俺の腕の中から出したくない」
「ふふ。私も出たくないです」
「颯人もぎゅってしろよ」
久しぶりにワガママらしき事を言った。
でも、むしろそんなワガママなら大歓迎だ。悠さんの下から腕を回して抱き返す。
悠さんの胸に顔を埋めて深呼吸する。
幸くんじゃないが、悠さんの匂いがして胸がきゅんとなる。
「颯人、顔上げろ」
言われたとおりにすると、甘い甘いキスが落ちてきた。
唇、頬、鼻、瞼、額。余すところなくキスの雨が降ってくる。
くすぐったくて笑って後ろに逃げると、悠さんが追いかけてきて押し倒された。
悠さんの唇がのけ反った俺の喉を甘く食んでいる。
くすぐったさが、次第に気持ちよさに変わっていく。
「なあ……しよ?」
悠さんの呟きに思わず恋に酔った脳がフリーズした。
再起動した時には、通常モードに戻っていた。
「ん、でも」
俺だって悠さんと、したい。
けれど俺は。
「私は、きれいじゃないから」
抱きしめようとする悠さんの肩を両手で押し留める。
悠さんはむっとしたように俺を見た。
「きれいじゃないって、どういうことだよ」
やめて。それを俺に言わせないで。
「悠さんだって……見たでしょう……。知らない男の玩具になって、その辺に捨てられて」
乱雑に、己の快楽を得るためだけに開かされた体は、悠さんに触れられるほどきれいじゃない。
悠さんはますます不機嫌そうになって俺を睨んだ。
「今更つまんねぇことに拘るんじゃねぇ」
突然腕を引かれて立ち上がらされた。
「え、な、何ですか、ねえ、悠さん?」
「そんなことは、ずっと前から知ってんだよ」
強引に引きずられていく先は……風呂?
脱衣所につくと、悠さんは強引に俺の服を脱がせていく。
「分かりました。分かりましたから、自分で脱がせてください」
「だァめ。俺の楽しみを奪うな」
あっという間に服を剥かれてまた風呂場に放り込まれる。
悠さんもさっさと服を脱ぎ捨てて風呂場に入ってきた。
「きれいじゃないなら、洗えばいいだろ」
「い、いや、そういう意味じゃ、ちょっと、悠さんてば」
シャワーでお湯をかけられて、ボディーソープを泡立てた両手でもこもこに洗われる。
悠さんて手のひら洗い派なんですね、なんてことを考える間もなく、悠さんの手のひらが俺の体の上を滑っていく。
我慢ができなくなったのか、キスされた。
舌を絡めてキスをしながら、体中を洗われる。
「ぅ、ん」
胸の上を丹念に撫でた手のひらは、そのまま脇腹、腰を通り過ぎて、えっと、その、尻とその前を洗う。
ちゅ、くちゅ、とキスが深くなっていく。
「悪ぃ、颯人」
「はい?」
「辛抱できねぇかも。初めてが風呂場でも、いい?」
駄目に決まってんだろこの馬鹿野郎、と反射的に心の中では罵るものの、実際は気持ちよくなっちゃっててまともに喋れない。
「だ、め……」
それだけ頑張って言って、悠さんの下唇に甘く歯を立てた。
熱くいきり立ったモノが腹に当たってるから、悠さんの余裕のなさは伝わってきた。
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