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5-YAMATO's Bar
「ねぇ、どれにする?僕全然決まんない」
「私もです。初めてなんでシンプルに行きたい気持ちはあるんですけど、ベリーソースのも捨てがたくて……」
「僕はね、バナナとチョコソースのやつと、塩キャラメルで迷ってるよぉ」
「ああ!塩キャラメル良いですね!」
写真付きのメニューを前にして、幸せそうに悩んでる二人。
いや、今日も日本は平和だわ。
俺はメニューを眺めるのに飽きて、椅子の背にもたれ、店内を見渡した。
ポップなインテリアで埋められた店内は、主に若い女性客で埋まっている。
それほどむさ苦しく見えないとは言え、男三人組なんて奇矯な客は俺たちだけだ。
ここはROY's CAFEという名前のパンケーキ屋だ。
目の前で周囲の女子に負けず劣らずきゃっきゃと喜んでる二人は颯人と大和。
どうしたって悪目立ちしている俺たちには、周囲からびしばしと女性客の視線が突き刺さっている。
慣れているのか、女顔美人の颯人も、合法ショタの大和もそんな視線を気にする様子はない。
「悠は何にするの?」
大和がふと視線をこちらに向けた。
「甘いの食う気分じゃねぇから、ベーコンとスクランブルドエッグがのってるやつ」
「ふーん。つまんないね」
「そうですね」
何だこいつら。
恋人とセフレと俺が一緒に食事をしているという時点でカオスなんだが、その両方から冷めた目で見られた。
なんでこんなことになったのかというと、先日のコンサートの際、大和がヘアメイク担当として派遣されてきた。
で、俺のヘアメイクをしてもらいながら、大和のROY's CAFEに行ってみたいんだよぉという話を聞いていたところ、通りがかった颯人が、私も行きたいですと食いついてきた訳だ。
二人ともスイーツ好きだから、遅かれ早かれこういう状況にはなるだろうと予想はしていたが……やっぱ気まずい。
大和は俺と颯人の関係を知っているが、颯人は大和と俺の関係を知らない。
もちろん大和には口止めしたから大丈夫だとは思うが、二人が並んで仲良くしているのを見ると、やましい気分になってくる。
俺にも良心があったんだな。
「決めた!僕塩キャラメルにする」
「私はベリーソースにします。あの三ツ橋さん……お嫌でなかったら一口……」
「もちろん!僕にも一口ちょうだいね!」
女子だ。会話が完全に女子だ。
どうやら食べたいものが決まったらしいので、手を挙げて店員を呼ぶ。
オーダーを通すと、メニューが下げられた。
「あーあ、やっと話の合う人が来てくれて僕超嬉しい!」
大和が颯人の手を取る。
「案外スイーツ好きな人、いないものなんですね」
「うーん。わざわざ食べに遠くまでは出かけないみたいだよぉ。理沙ちゃんはコンビニスイーツ専門だし」
「ああ、そうみたいですね。事務所の冷蔵庫に必ず何かしら入ってます。今はプリンが美味しいらしいですよ。トリムルティシリーズのプリンが一番濃厚で美味しいって熱弁してました」
「そうなんだ!今度買ってみようかな。……あ、そうだ。颯人さん、どうしても聞いておきたいことがあったんだよねぇ……ちょっと耳貸して?」
「なんですか?」
大和が隣に座る颯人の耳になにやら囁いた。
当然俺には話の内容は聞こえない。ただ、聞いている颯人の頬がだんだん赤くなっていくのが気になる。
大和が囁き終わってちょっと離れると、頬を染めた颯人が頷いた。
「えーっ、やっぱそうなの?うわぁ、信じらんない」
大和が大仰に驚いてみせる。
何の話だ?
「おい、何聞いたんだよ、大和」
「ん?颯人さんが最近お付き合いを始めた人について聞いたの」
ぅおい!こんなところで話す内容じゃねぇだろが!!
「ねぇねぇ、それでさぁ」
また大和が颯人に耳打ちする。颯人は少しの間目を伏せて考えてから、大和に囁き返した。
「……ひゅー!いいなぁ幸せそうで」
大和がにやにやとこっちを見てくる。
「今度はなんだよ、大和?」
「え、言っちゃっていいの?」
大和が颯人に訊く。
颯人は真っ赤になって首を横に振った。
「だめだって。後で自分で聞いたら?」
ここでオーダーした品が運ばれてきて、会話はいったん途切れた。
見た目にも可愛らしいパンケーキに大和が歓声をあげ、颯人は頬を緩める。
◇ ◇ ◇
帰り際、颯人が席を外した隙に大和が俺に囁いた。
「ねぇ、僕らの関係終わりにしよ?」
「そう、だな」
「颯人さん幸せにしてあげてよ」
お待たせしましたー、と戻ってきた颯人を見つめ、俺は頷いた。
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