80 / 138

6-星が降る夜は(2)

そして、問題の第三次予選の日。 さんざん文句を言っていた悠さんも、練習に練習を重ね、準備を進めていた。 結果、第三次予選を見事通過した。 「ははん。どうよ。俺様にできないことはねぇ」 「練習してるときはずいぶん弱ってたじゃないですか。イタコとか口走ってましたよ」 「人間は苦境を乗り越えて強くなる生き物なんだよ。あれもしょせんはただのハードルにすぎねぇ」 帰りの車内。 うって変わって上機嫌の悠さんは、唸り声を上げて肩を伸ばしながら調子のいいことを言っている。 「完璧だったろ?」 「はい。ちょっと心を打たれました」 「ほら見ろ。俺様にできないことはねぇ」 「次はセミファイナルですね」 「セミファイナルも、ファイナルも準備万端だからな。ここまで来たら優勝はもらったも同然だ」 そしてセミファイナルを難なく通過、ファイナルも……見事優勝した。 意気揚々と事務所に戻った悠さんは、高らかに宣告した。 「皆の者よく聞け!優勝したぞ!」 自席でおやつを食べていた山岡さんが、ぱちぱちと気のない拍手をした。 「おー。おめっとーさん。ほれ、祝いだ。受け取りな」 温泉まんじゅうを一つ悠さんに渡し、肩をぽんと叩く。 両手でまんじゅうを受け取った悠さんは手の中のそれを見て、ぽつりと呟いた。 「少なくねぇか」 「しゃぁねぇな、もう一つやるよ。それで終わりだかんな!」 「いや、まんじゅうの数じゃなくて。もっと盛大に祝えよ!」 不満げな悠さんが吠える。 「なんかなぁ。今更悠が優勝したところであんまり……なぁ?吹雪」 問いかけられた桧山さんも、苦笑している。 「山のようにあるトロフィーが一個増えたってだけだろ?特に感慨深くもないなぁ。悠には悪いけど」 「はぁぁあ?なんだよお前ら冷てぇな。それなりに権威のあるコンクールなんだぞ?なぁおい颯人は分かってくれるよな?」 「え?えぇ、まあ」 「じゃ、もっと褒めろ。なんか褒美くれ」 子供か! 「祝賀パーティー盛大だったじゃないですか」 「だって挨拶ばっかでろくに飯食えなかったんだよ!俺だって寿司食いたかったのに!」 「はは、なにか考えておきます」 ご褒美……ねえ。 悠さんが喜ぶことって何だ?ああ、ショタ以外で。 というか、コンクールで優勝したからって、なぜ俺がご褒美をあげなきゃならないんだ? 欲しいものがあるなら、賞金で買えばいいじゃないか。 ん。 お。そうだ、あれ、まだ使ってないじゃないか。 ふふ。この機会に使っておこうかな。 悠さんが喜ぶ結果になるかは分からないけど。少なくとも俺は楽しめる。

ともだちにシェアしよう!