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6-星が降る夜は(3)
その日の帰り際、俺は悠さんに声をかけた。
「ちょっと悠さんに一緒に見てもらいたいものがあるんですが、付き合っていただけませんか?」
「んぁ?ああ、いいけど。どこ行くんだ?」
「本屋に行きたいんです」
にこっと笑って俺がそう言うと、不思議そうな顔をしつつも了承してくれた。
帰り道の途中立ち寄ったのは、大型の書店だ。
「なあ、何見んの?」
「もうすぐ分かりますよ」
新書コーナーを抜け、雑誌エリアを素通りして、趣味のスペースまで来た。
俺たちがようやくたどり着いたのは、旅行ガイドのコーナー。
無論国内だ。
「ガイドブック?ここに来たかったのか?」
「はい」
切り出すには少しばかり勇気がいる。
こぶしをぎゅっと握りしめて、悠さんを見上げて言った。
「優勝のご褒美……ご褒美とはちょっと違うかもしれませんが、気分転換に、一緒に遠くに行きませんか」
悠さんは思ってもみなかったらしく、しばらく無表情に目を見開いて固まっていた。
「だめ、ですか……?」
この反応はどっちだ?
旅行はめんどくせぇ、とか言われるか?
言われたら、もう既に期待している俺はかなりショックなんだが。
ねえ、悠さん?だめですか?
悠さんが口を開いた。
「……旅行?」
「はい」
「颯人と二人で?」
「はい」
「お泊まりあり?」
「ええ、一泊二日くらいかなって思ってます」
ここまできて、ようやく悠さんの表情が変わった。
にやりと笑ってこう言った。
「ふふん。お泊りデートだな?悪くない。悪くないぜ」
やった!
「どこがいいですか?」
「そうだな……海沿いとかいいな。もちろん部屋から海が見える宿で。まだ海に入るのは季節的に無理だけど、眺めるだけでもいい気分転換になるだろ」
「部屋に露天風呂付きで」
「いいじゃねぇか。颯人、ナイスアイディアだ」
悠さんが笑顔で俺を軽く抱きしめる。
「ちょっ、ちょっと悠さん!人目がありますから」
「これくらいいいだろ。スキンシップじゃねぇか」
「もう!」
そうは言うものの、俺の提案を気に入ってもらえたのは嬉しい。
「そうしたら、このあたりですかねぇ」
本棚に手を伸ばす。
「そうだな……あ、この辺もいいんじゃないか」
二人してうきうきと、ガイドブックを見始めた。
悠さんと一泊二日かぁ……ふふ。楽しみだ。
ああだこうだ言いながらも、だんだん場所は自然と絞られていく。
最終的に、ガイドブックを一冊購入して、店を後にした。
車に戻ると、悠さんが唐突に助手席に座った。
「?どうしたんです……!」
抱き寄せられて、軽いキス。
「悪い。俺今、楽しみすぎて浮かれてる」
優しく、熱い眼差しで俺を見つめる。
そんなこと言うんだったら俺だって。
身を乗り出すと悠さんに口づけた。
「私も楽しみです」
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