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6-星が降る夜は(6)

気が付いたら車は海沿いを走っていた。 高速道路を降りたあたりから記憶がない。 「あれ、私寝てました?」 「おう。よく寝てたぜ」 運転席の悠さんに訊くと、にやっとした笑みと一緒に答えてくれた。 これは、俺が寝てる間に何かあったな。 「もうそろそろ着くからなー」 上機嫌の悠さんは鼻歌まじりでハンドルをきる。 車が止まったのは、浜辺を背にした一軒の宿だった。 入口に掛けられた藍の暖簾が目に鮮やかだ。 「うぉー!やった、海だぜ!」 車を降りた悠さんが、満足そうに海を眺めている。 プライベートビーチなのか、砂浜には入れないが、静かな音を立てて押し寄せる波が陽を浴びて美しい。 風も柔らかく、日差しも暖かな陽気で、ついうっとりと海に見入ってしまった。 「颯人ー!」 悠さんの呼び声で我に返った。 振り向くと、二人分の荷物を抱えた悠さんが宿に入ろうとしている。 「とりあえずチェックインしちまおうぜ」 「は、はい!」 やっぱり今日の悠さんはおかしい。 いつもだったら、俺が運転して、悠さんはぐっすり寝こけて、今頃は到着しても起きない悠さんに平手打ちの一つもかましてるはずなのに。 俺と悠さんが反対になってる。 なぜか悠さんが気が利くようになってありがたい反面、ワガママじゃない悠さんは悠さんじゃない!という気もする。 心の中で葛藤しながら宿の方が出してくれた冷たいお茶を飲む。 よく冷えていて美味しくて、そろそろ夏だなあ、なんてことを俺がぼんやり考えている横で、悠さんがさらさらと宿帳に記入している。 書き終わって宿の人に部屋を案内してもらって、食事の時間だとかの話を聞いている時も、俺は、悠さんちゃんと聞いてるなぁ……なんてぼーっと考えてしまった。 もちろん俺は話の内容が全然頭に入ってきてない。 もしかして、悠さんがしっかりしてるんじゃなくて、俺が脳ミソふわふわになってしまったんじゃないか? そんなことをやっぱりふわふわ考えているうちに、宿の人はいなくなってしまった。 うーん。あ、そうだ。部屋の中見ておこう。 今いる和室がメインの部屋で、隣に掘り炬燵のある小部屋があり、その奥は浴室と脱衣所がある。 洗面所とトイレは部屋の入口から行けるようになっていて、なかなか広々としている。 「お!すげぇ!颯人、見てみろよ!」 悠さんが急に呼ぶから、何事かと元の部屋に戻ってみると、視界一杯に海が目に飛び込んできた。 さっきまで奥の壁はカーテンが閉まっていたのだけれど、実は海に面した窓になっていたというわけだ。 青空と海の色が、水平線でぶつかり入り混じっている。 窓ガラスに手をついて見ていると、まるで海の上に立っているように錯覚する。 「きれい……」 思わず呟くと、背後に寄り添うように立っていた悠さんが俺の腰に手を回して引き寄せた。 「ありがと颯人。こんなの、最高のご褒美じゃん」 日常からかけ離れた海と空の青の美しさと、悠さんの優しい言葉と温もりと。 全てが胸の中を熱くして、まなじりから涙となって零れ落ちた。

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