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6-星が降る夜は(10)
布団を敷くために端に寄せられたテーブルには、氷と酒が入ったグラスが二つ。
なんとなく点いているテレビは、ニュースを映している。
酒瓶の中身は半分くらいまで減ってしまった。
「へえ、今日流星群が見れるらしいですよ」
「んー」
「でも、この天気じゃここからは見えませんね……」
昼間はいい天気だったが、夕方ぐらいから雲が増え、今は空が一面分厚い雲に覆われている。
「んふー」
一方で俺に膝枕をさせた悠さんはとろんとした目で俺にしがみついている。
珍しくだいぶ酔っているようだ。
普段の打ち上げでは、周りが潰れていく中、悠さんは最後まで平然とした顔をしているので、酒には強いのかと思っていた。
今はいつもほど飲んでないと思うのだが、現にごろにゃんと言わんばかりに幸せそうに俺の膝に頭を乗せて甘えてくる。
俺はまだ平気だ。
「悠さん、大丈夫ですか?ずいぶん酔っちゃったみたいですけど」
「らいじょーぶー」
大丈夫ではないそうだ。
「いつもはそんなに酔わないじゃないですか」
悠さんは手をさしのべてふわりと俺の頬に触れる。
「んふふー。今日は颯人と二人きりだもん」
さんざん甘えられて乱れた浴衣の合間から覗いた脚に、キスが落ちてくる。
普段は凛々しい悠さんも、ここまで酔ってしまうと、可愛らしく見える。
「悠さん」
「なぁにー」
「私、欲しいものがあるんですけど」
「鍵ならやんねーぞ」
ちっ。
まだ酔いが足りないか。
「しょうがねぇな、大人の話するか」
は?!
悠さんは起き上がると、乱れた髪を手櫛で直した。
さっきまでの、ごろにゃんモードの悠さんは一瞬にして消え、いつもの悠さんが戻ってきた。
「酔ってなかったんですか?」
「いいや?それなりに酔ってる。さっきのどう見ても酔ってたろ?」
前髪に指を通しながら、平然とした顔で言う悠さん。
ごろにゃんモードも、今の平常モードも、どっちも本当ということか。
あーあ。
酔ったら甘えてくるなんて可愛いところもあるじゃないかと思ったのに。
「さっきの方が良かったです」
「そう?」
にやりと笑った悠さんは、グラスを一つ空にして、氷と酒を満たす。
「あーあ、氷溶けちまったな」
「まだ飲むならまたもらいますけど」
俺が部屋の電話を見ながらそう言うと、からんとグラスを傾けた悠さんは真顔で答えた。
「颯人がフロントまで行ってもらってきてくれるなら、飲む」
冗談じゃない。
「返すもの返してくださいね」
俺はまだ下半身がすーすーするのに馴れないんですが。
いや、馴れてたまるか。早く下着返せ。
「何のことかなぁ」
悠さんはすっとぼけた顔でウイスキーを飲む。
「あー、まだ飲みたいなー。颯人、フロント行って氷もらってこいよ」
俺が電話に手を伸ばすと、悠さんは俺の浴衣の裾をめくるという卑怯な手を使って阻止してきた。
「や、ちょっと、見えるからっ」
とっさに俺が浴衣を押さえている間に電話線が抜かれる。
「この電話通じないからダメ」
けけ、と悠さんが舌を出す。
「ちょっと、もう、何なんですか!」
俺だって我慢の限界ってものがあるんだからな。
電話線を抜いた電話を立ち上がって違い棚の上に置いた悠さんは、ふと俺を見下した。
「えっろ。浴衣の隙間から脚見えてんの、すげえエロい」
俺が押さえたから恥部はかろうじて隠れているけれど、さっきのごろにゃんモードでさんざん甘えられて裾の乱れた浴衣は肌蹴て、つま先から太ももの際までしっかり出ていた。
俺は体毛はあまり生えない方だから、照明に白く照らされて艶っぽく……見えるかもしれない。
「酒もういいや。颯人にする」
「は?」
意図を図りかねて俺がきょとんとすると、悠さんは腰を下ろして、俺の脚をつつつっと指先でなぞり上げる。
煽るような触り方に、背筋がゾクゾクする。しかし。
「颯人、隠してないで俺のこと誘惑してみせてよ。エロい颯人が見たい」
……はい。我慢の限界来ました。
王子様にワガママ放題好き勝手をさせるのはここまでです。
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