90 / 138
6-星が降る夜は(12)
十時三十分。
「んーん……なあ、俺にも一口くれよぉ」
ごろにゃんモードに戻った――というか俺が戻した――悠さんが、俺の膝の上に頬をのせてねだる。
はい、と焼酎の入ったグラスを差し出すと、悠さんはいやいやと首を振る。
「『一口』欲しいって言ったろ」
ワガママ二割、甘え八割くらいが俺の好みらしいと学んだ悠さんは、ちょこっとワガママも混ぜつつ甘えてくる。
アルコールを口に含んで悠さんにちょっと起き上がってもらうと、『一口』焼酎を飲んでもらった。
「ん……」
喉を焼く液体を飲み込んでからも、悠さんがキスをやめない。
俺の口内に残るアルコールをすべて奪い取ろうとするかのように、頬の裏から上顎に至るまで、ありとあらゆるところを舌が愛撫する。
「……は」
腹の底がじわじわと熱を帯びてきて、俺は悠さんの胸を軽く押してキスを終わりにした。
悠さんが不満そうに眉根を寄せて下唇を突き出して、むっとした顔をする。
「なんで?俺のキス嫌いか?」
ふふ、その表情も愛おしい。
「いいえ、大好きですよ」
「じゃあ続きしようぜ」
なあ、と悠さんは俺の頬に手を添えて、親指で唇をなぞる。
「これ以上キスしてたら、キスにならなくなるから」
「ん?」
悠さんが首をかしげる。
「阿呆な俺にも分かるように言ってくれよ」
ああ、なんでそんなに魅力的な顔ばっかりするんですか。
ずぶずぶハマって、抜け出せなくなる。
「キス以上を求めたくなるでしょう?」
「いいじゃん。キス以上、しよ?」
悠さんは嬉しそうに笑って、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と俺の唇と鼻の頭と右頬に口づける。
「まだ、駄目です。大人の時間になったら、ね?」
「それって何時?」
「さあ……何時でしょう」
悠さんは待ちくたびれた子供のように、俺の浴衣の裾を引く。
「もう充分大人の時間だろ?なあ」
「まだ早いです」
悠さんの額に口づけを返して宥めた。
◇ ◇ ◇
十一時五十分。
俺の膝の上で眠くなった悠さんは、髪を梳くように撫でられると気持ちよさそうに微笑む。
「なーあー……。おとなのじかん、まだ?」
「もう少しですよ」
「なんかもう、なでられてるだけできもちいいんだよ……」
「ふふ、猫みたいですね」
「ねこ?はじめていわれた。どこがねこみたいなの?」
頭を撫でる手を止めると、やめるなと言わんばかりに、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「ごろごろって、今にも喉を鳴らしそうじゃないですか。そんなに撫でられるの好きですか?」
「ふふん。だーいすき、だよ」
空いている俺の手を取って、中指の背に唇を触れる。
「ずっと、はやととふたりきりで、こうしてたい」
ともだちにシェアしよう!