十二時。 「悠さん。大人の時間になりましたよ」 「んー……」 俺が髪を撫でる手を止めてそう告げると、ぱちぱちと瞬きをした悠さんは、惜しそうな目で俺を見上げた。 「はやとのじかんは？おわりなのか？」 「終わりです」 「えんちょーする」 悠さんがまさかなことを言いだした。 「はい？」 「大人の時間と颯人の時間、両方やる」 「いいんですか？」 「俺がいいって言ったらいいんだよ」 膝枕のまま駄々をこねる悠さん。 「颯人は嫌なのか？」 「嫌じゃないですけど……」 「じゃあ決まりな」 笑顔でそう言った悠さんは、目を閉じて、ん、と唇を差し出した。 遠慮なくいただいて、そのまま悠さんを布団の上に押し倒す。 深く深く舌を絡めて、溶けて、一体になるまで甘いキスをする。 「んっ、……ふ……ぁ」 やっぱり、悠さんとするキスは気持ちいい。 思わず吐息が漏れるたびに、体の奥が待ちかねるように熱を帯びていく。 「ははっ、やっぱりキスで濡れてんじゃねーか」 悠さんが下から手をのばして俺の浴衣の帯を解いた。 はらりと開いた浴衣の間から、延々と『待て』を食っていたソレが涎をにじませているのが見える。 「だってっ、ずっと浴衣一枚で、食事とか、膝枕までっ……酷いです」 唇を噛んで上目遣いに悠さんを見上げると、意地悪そうに笑っていた。 「でもちょっと気持ちよかったんだろ？もう勃ってる」 「それは……その、あの。……責任とってくださいね」 悠さんの太ももをまたいで座り、こちらも帯を解く。 浴衣をまくるまでもなく臨戦態勢のそれが浴衣の布地を押し上げていた。 「悠さんだって勃ってるじゃないですかっっ」 「俺のは完全に颯人のせいだからな。瞳見つめながら脱がすとか……そりゃ興奮もするさ」 「ずるい、ずるいです」 浴衣の隙間から手を差し込んで軽く握ると、肌がうっすらと汗をかいている。 「ねぇ悠さん？」 問いかけると、悠さんが俺を見上げる。 「後ろ、ほぐしてくれませんか？」 瞼をとろんと伏せて。 瞳を潤ませて。 目許に朱を刷いて。 赤く濡れた唇でお願いした。 悠さんがそんな俺を見てごくりと喉を動かす。 「いいぜ。颯人の大人の時間だからな」 その夜は忘れられないほどに情熱的で、俺の胸に深く刻みこまれた。 情事の後、お互いにどうしても離れられず、足を絡ませ抱き合ったまま眠った。 ときどき目を覚ましては、優しいキスを交わして、また眠った。 きっと今、俺たちのはるか頭上、分厚い雲の上では、星が降っている。 夢見心地にその光景を頭に思い描いて、そんな特別な夜を悠さんと過ごせることを音楽の神様にひっそりと感謝した。