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6-YAMATO's Bar
はあぁ……日常に帰ってきた。
颯人と過ごした二日間は、苺のクレープよりも甘々で、颯人のほっぺについた生クリームのように愛おしかった。
でも今は休みも終わりかけの午後三時。
旅行なんてまた行けばいいと言うかもしれないが、今回の旅はかけがえのないものになったと思う。
颯人の知らない一面も見れたし、な。
ちょっと……いや、だいぶ刺激的だったけど。
そんで、今俺が何をしてるのかというと、大和に土産を持ってきた。
隣室のドアの前に立ち、インターホンを押す。
「はぁいー」
お、今日は大和の機嫌がいい。好都合だ。
「俺だ。土産持ってきたぞー」
ドアを開けた大和は急に胡散臭そうな顔になった。
どういうことだよ。
「悠がお土産?やだ。ゲテモノでしょ?いい。いらない」
「そんなもん持ってこねーよ!大和お前俺のことなんだと思ってんだ」
「犯罪者予備軍」
大和は今日も辛口だ。
言おうか言うまいか逡巡して、癪だから言わないことにした。
「じゃ、俺様からの土産はいらないな?」
「うん。ばいばい」
なんと情の薄い奴か。大和はあっさりとドアを閉めようとした。
「待て待て待て閉めんな待て。分かったよ、正直に言うよ。颯人からの土産だ」
とたんに大和の顔がぱあっと明るくなりドアを大きく開けた。
「颯人さんから?!え!なになに早く見せてよ悠」
俺との温度差よ。
そういうストレートな奴だから付き合いが続いているとも言えるが、あんまりじゃないか。
「ほれ」
持ってきた袋を渡すと、待ちきれないといった様子で中を覗く。
「ちょっと!ちょっと馬鹿悠!!もー!!馬鹿!!阿呆!!間抜け!!」
いや、意味わかんない。なんで俺罵られてるの。
「柘榴亭じゃん……!さすが颯人さん!分かってるぅ」
たたたっと大和は身も軽く中に入っていく。俺もしょうがないからついてった。
正方形の薄い箱をカウンターに置いて、指をわきわきさせる大和。
「大和お前、人のこと言えねーぞ。充分挙動不審だぞ」
「だってさぁ、あの柘榴亭だよ?一回食べなきゃって思ってたんだよねー!あーやばい、アドレナリン出る」
柘榴亭という菓子屋がどれだけ評判いいのか知らないが、どえらく早い時間から店の前に並ばされた。
颯人と一緒だったから時間つぶしも苦じゃなかったが、俺一人で買いに行ってたら、絶対に行列見た瞬間に回れ右してたと思う。
「開けるよ?開けちゃうよ?」
「さっさと開けろよ。温まっちまうだろ」
「ふふふ。オープン!!」
大和は目をキラキラさせながら箱を開けた。
「…………だよねぇ颯人さん、ありがと…………ナイスチョイス……」
買ってきたのはチーズケーキ。極々シンプルに黄色くて、丸くて、俺にはそこらのケーキ屋で売ってるチーズケーキとの違いが分からねぇ。
ただ、大和の反応を見る限り、そこらのケーキ屋のとは違うらしい。
「あぁあ颯人さんにメッセージ送る!写真も付ける!悠写真撮って!」
チーズケーキと一緒にきらきらした笑顔をレンズに向ける大和。
「これ買うの大変だったでしょー!」
「そりゃもうもちろん。開店前からすっげー並んだ」
「だよねぇー。悠知らないと思うけど、このチーズケーキすっごい人気で、しかも一日限定十個しか焼いてないんだよぉ」
「ほえー」
「ああもうどうしよぉ。食べる?食べるの?もったいなくない?」
「いや食ってくれよ。せっかく買ってきたんだから。俺は店で食ったから大和好きなだけ食えよ」
大和がちょっと見ないレベルではしゃいでいる。
ここまで喜んでもらえるなら、買ってきてよかったと思えるな。
「じゃあもう今すぐ食べる!」
キッチンに駆け込んでいった大和がナイフと皿とフォークを持ってきた。
満月のようなまあるいチーズケーキに、さくっとナイフが入る。
土台のクッキー生地にナイフが切り込んで、ざくっざくっといい音がする。
大きめに切り取った大和は、ケーキを皿に移して、手を合わせる。
「いただきます……!」
慎重にフォークを入れる大和。一口サイズに切り取ったそれを恐る恐る口に運ぶ。
どうでもいいけど、チーズケーキ一個で大げさじゃねぇ?
もぐ、もぐ、もぐ。ざく、ざく、ざく。
大和からいい音がする……おぉぉ、表情筋がすげぇことになってる。
「神様ありがとう……」
大和は恍惚とした表情で、天に祈りを捧げた。
いや、感謝するなら、行き帰りの車を運転した俺に感謝しろよ。
たぶん神様は何もしてないぞ。
「美味いか?」
「……最高……いや、至福……」
大げさな奴だな。
「悠……」
「あ?」
「颯人さんと付き合ってくれてありがとう……末永くお幸せにね……」
「お、おう。ありがとう」
まさかこんなことで大和に祝福されるとは思ってなかった。
言われなくとも幸せにやってくけどな!!
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