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7-YAMATO's Bar
「なぁ、助けてくれよぉ、大和……」
今日も今日とて俺は大和の部屋で酒をかっくらって愚痴ってる。
「知らないよ。この馬鹿、阿呆、マヌケ、あんぽんたん、馬鹿、スケコマシ、変態、阿呆、すっとこどっこいの大馬鹿者!」
「馬鹿三回、阿呆二回被ってるよ……」
焼酎をあおって、深い深いため息をつく。あ、俺悠な。小原悠。
知ってる?
あ、そう。
じゃあ、知恵を貸してくれよ。颯人に戻ってきてもらう方法。
何でもいいからさぁ、どうにかして、俺の大好きな、悪戯好きで可愛い颯人が俺のところに戻ってくる方法をよぉ。
いや、無理とか言わないでさぁ……。
今まではマネージャーが愛想を尽かしたら、担当を外すか、辞めるかしてリセットしてたんだが、今回ばかりはそうはいかない。
「だいたいさぁ、なんであんな馬鹿なことしたのさ。颯人さんのこと好きなんでしょ?」
うぅっ。
「だってさ、俺を騙すか、子供をあしらうみたいにずっと黙ってて、直前になって初めて知らされてさ?颯人にとって、俺ってそういう存在だったんだって思うじゃねぇか。俺は何でも言える間柄のつもりだったのに。それで、当てつけてやろうって、……そう思っちゃって……」
「それで、かっとなって僕にキスしちゃったの?馬鹿じゃないの?」
大和が容赦してくれない。
「そーだよ、俺は馬鹿なんだよ!」
俺は認めた。反抗するにも、もっと他の方法があったんじゃないか。
颯人の心は離れない方法が。
「じゃあここで、恋愛のスペシャリストの意見を聞いてみましょー!」
は?
大和が明るく言い放つと、カウンターの下から良太がごそごそ出てきた。
「いてててて、やっぱちょっと狭いぜここ。腰が固まっちまった」
「おいおいおい、恋愛のスペシャリストが腰やっちまってるぞ!いろんな意味で大丈夫かよ!だいたいなんで良太なんだよ」
良太が顔をしかめて拳で腰を叩いている。頼りねぇ。
「だって、事務所のメンバーで既婚者は山岡さんだけなんだもん」
「既婚者イコール恋愛のスペシャリスト、にはならないだろが!吹雪にでも聞いたほうがまだマシだ。あ、所長でもいいか」
途端に大和と良太が食いついてきた。
「やっぱ所長さんモテるの?」
「そうなのか?」
俺は思わず身を退いた。
「いや、知らねぇけど。あの年であの肌艶は絶対毎週若い男引っかけてるだろ」
「所長って幾つだ?」
良太が首をかしげる。
「あ、知らない?じゃあ黙っとく。所長怖いから」
俺は口を閉ざした。口は禍の元、だ。
「おい、知ってんなら教えろよ!気になるだろ!」
「え、四十はまちがいなく行ってないよね。三十後半くらい?」
「俺はなんにも言わないぜ。つーか俺の話はどうなったんだよ!」
「あー、はいはい、悠の話な。……悠、お前は馬鹿だ。大馬鹿者だ」
「……それはもう聞いた」
こいつら駄目だ。家帰ってピアノ弾いてた方がまだマシだ。
「そもそもよ、悠、お前は颯人との年の差を考えたことがあるのか?」
おっ、ちょっとそれっぽいこと言い出した。
「十歳。それに加えてお前のワガママっぷりはプラス五歳に匹敵する」
「んな、大袈裟な」
「計十五の年の差だ。そんだけありゃ、自分の掌で転がしてやった方がお互いにいいとも思うさ」
「馬っ鹿野郎!颯人はそんな事しねぇ!」
つい俺が声を荒げると、良太はにやにやした。
「これはこれは三ツ橋さん、ずいぶんと惚れ込んだもんですな」
「ぷぷぷ。でしょ?もううざいくらいに惚気てたもん」
「うるせぇ!好きなんだからしょうがないだろ!」
腕組みをして架空の髭を捻った良太は、重々しく答えを出した。
「そんだけ好きなら時間が解決するさ。いつも通りに接しろ。ただしワガママは気を付けろよ」
「本気かよ」
「信じるか、信じないかはお前次第」
胡散くせぇ良太の言葉。どうする?俺。
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