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8-なつのおもいで(3)

あっという間に合宿当日。 池田音楽事務所のメンバー七人を乗せた車は、早朝暗いうちから一直線に海を目指して走った。 道中の車内は騒がしくも短く感じられるほどだった。 普段の仕事中では見たことのなかった皆の私生活の一端を垣間見た気がする。 例によって寝不足なのか出発直後から爆睡する悠さんに、「おい圭吾、鼻摘まんでやれ」と悪戯をけしかける山岡さん。 それを受けて「無理ですよぉ」と尻込みする二宮さんがいたり。 いつもスーツを着用している所長の私服姿が、思っていた以上に若かったり。 運転席には山岡さんと近江さん、桧山さんが交代で座った。 が、しかし一巡したところで近江さんは運転手のローテーションから外された。 「理沙ちん怖ぇ。高速道路はサーキットじゃないし、この車もレーシングカーじゃないんだぞ?」 交代した山岡さんは軽口をたたくが、その顔は微かに引きつっている。 「すみません……運転席に座るとつい楽しくなっちゃうんです……あ!でも免許証はゴールドですよ!」 「そりゃ奇跡だわ。今後の無事を祈ってる。つか普段圭吾怖くねぇの?」 「目をつぶれば怖くないです」 「いやいやいや!目をつぶって済ますなよ。いつか事故るぞ。今後は普段から圭吾が運転しろ。マジで」 近江さんの代わりにローテーションに俺が入った。 サービスエリアで休憩がてら山岡さんから俺に運転手を交代する。 「颯人、運転よろしくなー。大丈夫か?疲れてない?」 悠さんとの事を考えて憂鬱になっていたのが顔に出てたか? 俺は笑い返して見せた。 「まだまだ元気ですよ」 「ならいいけどよ。何かあったら言えよ。プライベートでも仕事でも何でも話くらいは聞けるからな」 「ありがとうございます。でも今のところ元気なので大丈夫です」 「そうか?無理はするなよ」 山岡さんの心遣いは嬉しいが、これは自分で解決しなければいけない問題だと思っている。 俺が運転席に座り、再び車は走り出す。 ふとルームミラーを覗くと、後部座席に行った山岡さんが笑いをこらえながら何かしている。 「お!食った!食ったぞこいつ」 起きる様子のない悠さんの口許にポッ○ーを差し出して、食べさせようとしている。 どうやら眠りながらも食べたらしい。 「くくくくくっ……やべぇ、笑いすぎて腹痛ぇ……苦しい……」 「山岡さん、悪戯しちゃ駄目ですよ。ふふっ」 二宮さんが小声でたしなめる。 「圭吾だって笑ってんじゃねーか。同罪だぞ。しかし本当によく寝るな悠」 二本目を袋から出しながら、山岡さんは半分呆れながらも笑った。 さあ、高速道路を降りる時が来た。 海まであと少しだ。

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