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8-なつのおもいで(5)
綺麗な海を目にして気持ちが逸 った俺たちは、競うように昼食をかっ込んで所長を苦笑させた。
食べ終わって一休みしてから、海に飛び出していく。
一番に突っ込んでいったのは悠さんと山岡さんだった。
歓声を上げながら波を蹴立てて、互いに水をかけ合っている。
「良太!てめえさっき車ん中で、俺の口にチョコ突っ込んだろ!!」
「ずっと寝てて起きてこねえから食わしてやったんだよ、感謝しろ!!」
「余計なことすんじゃねぇ!おかげで昼飯まで甘くなっちまったろうが!!」
夏らしい日差しの中、飛び散る水滴がきらきらと輝いている。
「仲良くなったな、良太と悠」
マイペースに食べ終わった桧山さんが、二人を眺めながら食休みしている。
「山岡さんが悠さんの担当だった時も、あんな感じだったんですか?」
ふと思ったので聞いてみた。
「いやいや、あんな和やかにじゃれ合ってなかったな。もっと殺気立ってた。悠は常にピリピリしてたし、良太も喧嘩腰だった。二人とも本来はいい仕事するのに、あの頃はパフォーマンスを百パー発揮できてなかったなぁ」
それは……さぞかし雰囲気悪かったろうな。
「越野くんが来てくれて本当に助かったわよ」
クリームソーダを飲みながら所長が言う。
「悠が自分で連れてきたから期待はしてたけれど、最近じゃ完全に悠が飼いならされてるものね」
「はは」
まさか今は破局寸前です、なんて言えない。
ずっとこのまま膠着状態でいるわけにもいかないし、そろそろ何とかしなければ駄目かもしれない。
思わず出そうになるため息をこらえた。
「うーん……なんでだろう……」
俺たちが座っているところから砂浜に出たところで、近江さんが首を捻っている。
「どうしました?」
二宮さんが声をかけた。
「フローティングベッド持ってきたんで、膨らまそうとしてるんですよぉ。でもどっかから空気が漏れてるみたいでうまくいかないんです……」
「そうなんですか。見せてもらってもいいですか?」
「ありがとうございます!どうぞどうぞ」
近江さんが場所を空ける。替わって二宮さんがしゃがみこんだ。
「あ、ポンプの接続部分が割れちゃってますね。近江さん、ちょっとここをこういう感じで握っててもらえますか?」
「なんと!了解です」
二人が場所を入れ替えて、二宮さんがポンプを踏む。
みるみるうちに膨らむオレンジのマンボウ。
「やったー!ありがとうございます二宮さん!」
二宮さんの手をとってぶんぶんと振った近江さんは、片手にマンボウを抱えると、二宮さんを海へ誘った。
「マンボウ乗りませんか?私引っ張りますから!」
「へ?あ、はい」
戸惑いながら頷く二宮さん。
「ほら圭吾、シャツ持っててやるよ」
笑いをこらえた桧山さんが伸ばした手に、二宮さんが言われるままに羽織っていたシャツを脱いで渡した。
まだ二宮さんは状況が飲み込めずきょとん顔だ。
「行きますよ二宮さん!」
二人が海へと駆け出していく。
その後ろ姿を眺めながら所長が微笑んだ。
「青春ねぇ……」
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