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8-なつのおもいで(6)
周りに客がやや増えてきたので、場所を移動した。
駆けつけてきた山岡さんによってビーチパラソルとレジャーシートが手際よくセットされ、あっという間に憩いの場ができあがる。
「あら良いじゃない。ドリンクまで用意してくれたの?」
クーラーボックスを開けた所長がにっこり笑った。
「はい!俺がいるからには夏の海で不自由はさせません!」
なんとも頼もしい夏男な山岡さんだ。
一方、その山岡さんと騒ぎ散らしてちょっと疲れた悠さんは、クーラーボックスを覗き込んでサイダーに手を伸ばした。
同時にサイダーに手を出した近江さんと手がぶつかって思わず二人は顔を見合わせる。
勝負は一瞬だった。
合わせた視線がそれる前に、悠さんが近江さんに至近距離かつ極上の王子様スマイルをぶちかます。
近江さんは頬を赤く染めて手を退いた。
「さんきゅ」
にやりと笑みを変えた悠さんがペットボトルを取り上げる。
途端にブーイングの嵐が沸き起こった。
「おい、王子様スマイルを身内に使うのは卑怯だぞ!圭吾、お前もなんか言えよ、男だろ!!」
山岡さんが二宮さんをけしかける。
「あ、え、なんで僕が?」
「なんでって……言っちゃっていいのかよ」
「だっ駄目です!黙っててください!!」
にやにやする山岡さんと、真っ赤になる二宮さん。
そういう事だったのか。気づかなかった。
一息ついて落ち着いた後は、全員でビーチバレーをやった。
もちろんチーム割は山岡さん・近江さん・俺、と、悠さん・二宮さん・桧山さんだ。所長が審判。
このメンバーでは一番背の高い悠さんが山岡さんを指して宣戦布告する。
「今までの屈辱をはらす!」
「どっちかってーと、俺の方が鬱憤溜まってるんだけどな。何でもいいや、馬鹿悠なんかには負けねぇ。かかってこいや!」
戦いは熾烈を極めた……と言いたいところだが、笑い声の絶えない平和な試合になった。
悠さんのボールコントロールがめちゃくちゃで、明らかに狙っていないところにボールが飛んでいくからだ。
五度目のラインアウトで、桧山さんが見切りをつけた。
「圭吾、悠はもうダメだ。悠にボールを渡すな。俺たち二人だけでやった方がマシだ」
「は、はい」
「テメエら、俺を裏切るつもりか!?」
振り返った悠さんが桧山さんを睨む。
しかし、桧山さんはどこ吹く風で悠さんを見返した。
「いいや?ただ、俺は負けると分かってる試合はしたくないだけだ。悪いな悠」
「はん。それなら自力でボールを奪ってやるよ。見てろ」
いつの間にか三つ巴の戦いになり、マネージャー2:桧山さん&二宮さん1:悠さん1という結果に終わった。
奇跡的に悠さんも一本取り、負けたとはいえ満足そうだった。
試合後は各自散開して喉を潤すなり、海に入るなり、散歩に出るなりして自由に過ごした。
俺もパラソルの陰で冷たい飲み物を飲んでいると、山岡さんに声を掛けられた。
「なあ颯人、悪いんだけど、この鍵を悠に渡してきてもらえるか?俺そろそろ夕飯の準備始めるからさぁ」
悠さんに?
辺りを見回すと、確かにいない。
「一人で散歩してくるとかって、向こうの方に歩いてった。よろしくな!」
山岡さんは俺に無理やり鍵を渡して去っていった。
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