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8-なつのおもいで(8)

悠さんに貰った桜色の花びらをポケットの中で撫でながら、俺はもと来た方へ散歩をするようにゆっくりと足を進めた。 久しぶりに悠さんと会話らしい会話を交わしたけれど、まだ、どうしても壁を作ってしまう。 このまま時間をかければ、俺はいつか悠さんを許容できるようになるんだろうか。 意地っ張りで頑固な俺の性格を少し面倒に思う。 俺が意地を張るのをやめるのと、悠さんが俺を諦めるのと、どっちが早いだろうか。 案外、悠さんはそろそろ飽きてしまうかもしれない。 そうしたら俺は……何を思うんだろう。 意地っ張りな自分を後悔するんだろうか。 コテージに戻る階段が見えたけれど、もう少し一人でいたくて、そのまま砂浜を歩き続けた。 「おねーえさん」 突然声をかけられたが、まさか自分のことだと思わなくて、うつむいて歩いていた。 声は追いかけてきた。 「ショートカットのお姉さんってば。スルーしないでよー」 軽薄な響きのするその声は、俺の前に立ち塞がってむりやり足を止めさせた。 二十歳前後の男が、俺の前に立っていた。 鮮烈な赤髪で、肌は日に焼けている。 にこにこ笑いながら俺を見る。 「お姉さん綺麗だね。あのさぁ、俺今一人でさ。一緒に遊んでくれない?」 性別間違いのナンパか。 ラッシュガードの丈がやや長めなので、確かに体格が分かりづらいかもしれない。 それでも女性に間違われるとは。心の中で苦笑する。 「あの、すみません。私、男なので」 そう返すと、さすがに赤髪の男は驚いた顔で一瞬固まった。 しかし。 「おねえさんなら男でもいいや。ちょっと来てよ」 急に強引になった男は、俺の腕を掴むと岩陰に引っ張り込もうとする。 「は?何を?やめて、放してください」 俺とそう変わらない細身だが、握力が強く、振り解けない。 「そんな嫌がんなくったっていいじゃん。遊んでよ」 赤髪の男が周囲に目をやったかと思うと、そこらの物陰から仲間らしい男たちが現れて、俺を岩陰に、人目につかない場所に連れていく。 「お前、本気?」 赤髪の男と反対の腕を掴んだ、長髪を後ろで束ねた男が訊く。 優男風に見えるが力がかなり強く、こちらは振り解くどころかピクリとも動かせない。 「当り前じゃん。いけるっしょ。嫌ならその辺で見てれば」 「見てるだけとか無理。お前がいいならヤるけど」 連れ込まれた岩陰はうまい具合に岩が並んでいて、沖からでないと覗くこともできない場所だった。 膝くらいの高さの平らで広い岩があって、”休憩”するには都合が良さそうだ。 中に入ると突き飛ばされて、岩場で膝を擦りむいた。 「お前ら、やれ」 赤髪の男がそう言うと、四人の男に囲まれた。

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