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8-なつのおもいで(14)

何とか両手の拘束が解けたのは、どれだけ時間が経ってからだっただろう。 途中惨めさのあまり戒めを解くのも嫌になったが、何とかあたりが暗くなる前……つまり同室の山岡さんに心配される前に自由を取り戻すことができた。 顔や腹、手足は大量の精液まみれ。 目立つところだけ海水でざっと洗い流す。 できるだけ避けたつもりだったが、それでも傷口に海水がしみて悶絶した。 放り出されていたラッシュガードと水着の砂を払って着て、ファスナーを上まで上げた。 腕や脚のきつく掴まれていた部分は早くも青黒く痣になっている。 腕の痣は隠せるが、脚の痣は……。 気づかれないことを祈るしかない。一刻も早く痣が隠れる服に着替えよう。 カリッとポケットから音がして、悠さんに貰った貝殻のことを思い出した。 右手をポケットに突っ込むと、いつの間にか二枚とも割れていた。一枚はきれいに半分に、もう一枚は粉々に。 なぜか何の感情も湧かず、それをその場に置いた。 感傷に浸る前に手放したかった。 どうやって山岡さんに言い訳しようか。 俺はそれだけを考えるようにしてコテージに戻った。 「おー、颯人。どこ行ってたんだよ。もうすぐ夕飯だぞ」 コテージのドアの前に立ってドアノブに手をかけた時、背後から咥えタバコの山岡さんに声を掛けられた。 俺は飛び上がりそうなほどびくついた。 「ん?膝どうした」 そういえば膝は突き飛ばされた時に擦りむいたんだった。 咄嗟に口が動いた。 「はは、岩場を歩いてたら派手に転んじゃって。あちこちぶつけちゃいました」 うん、これならセーフだろう。痣も転んだせいにしておこう。 「大丈夫か?大きめの絆創膏持ってるからやるよ」 「ありがとうございます。汗かいたので、ちょっとお風呂使いますね」 「おう。じゃ、テーブルのところに置いとくから」 山岡さんに軽く頭を下げ、荷物の中から着替えを取り出し、逃げるように浴室に向かった。 分かってはいたが最悪だった。 傷だらけ、痣だらけ、挙句に精液まみれ。 傷口にお湯がしみるたび、歯を食いしばって涙をこらえた。 中に指を入れて、流し込まれた体液をできるだけきれいに掻き出す。 惨めだった。 こんな日常から遠いところに来ても、屈辱を受けなければならないのか。 何かの報いか?報いならば俺がいつ、どんな悪いことをした? 結局最後には涙をこらえきれず、目じりから一筋零れ落ちた。 気持ちが落ち着いてから浴室のドアを開け、体の水気を拭きとる。 念のため長袖も持ってきておいて良かった。トップスは長袖のシャツに、ボトムスは薄手のジャージにした。 これで肌は隠せる。 椅子に腰を下ろし、山岡さんがくれた絆創膏を膝に貼る。 ひとつ深呼吸をして、膝に手を置いた。 大丈夫。いつも通りだ。何も悪いことなんてない。 な、そうだよな? しかし、現実はそう思い通りに運んでくれないらしい。 外が騒がしい。

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