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9-スキ、キライ、スキ(1)

海から帰って以来、悠さんとの付き合い方が少し変わった。 仕事に関する話しかしないのは相変わらずだけれど、悠さんが時折甘えるようにワガママを言うようになった。 大抵は聞き流すのだが、聞き流しすぎると悠さんがひっそりと落ち込むので、ごく些細な内容なら淡々とした態度は崩さずに聞くようにしている。 例えば、演奏を聴いてほしいだとか、帰りの寄り道に付き合えだとか。そんな内容だ。 今日は山岡さんたちも、近江さんたちもイベントで出払ってしまい、事務所には所長と俺と悠さんしかいなくなった。 がらんとした事務室。俺は応接スペースを借りて昼食を食べていた。 今日は家から持ってきた弁当だ。 しばらく前から、毎週水曜日は弁当を作って持ってくるようにしている。 中身は白米以外すべて、スーパーの特売の日に買いだめした冷凍食品だが、それでもコンビニ弁当よりは安く済むし、わりと美味しい。 所長は外食中。 昼休み半ばになってようやく三階のスタジオから降りてきた悠さんが、「コンビニ行ってくる」と誰にともなく声をかけて、ふらっと外に出て行った。 我関せずと決めこんで弁当を広げて食べていると、悠さんは間もなく戻ってきた。 「邪魔するぞ」とだけ言って、俺の向かい側に腰を下ろすと、コンビニの袋から弁当を取り出した。 「いただきます」 律儀に手を合わせて、弁当に箸をつける。 ふと悠さんが俺の弁当を見た。 「ん、そのコロッケ中身なに?」 「クリームコロッケですけど」 「いーなー。俺クリームコロッケ好き。なぁ、唐揚げと交換しねぇ?」 「はあ」 それくらいはいいか、と弁当の蓋を皿代わりにクリームコロッケを一個置いて差し出すと、悠さんはコロッケを一口で食べて、代わりに唐揚げを寄越した。 甘辛いタレのかかった唐揚げも悪くない。 「この唐揚げ美味しいですね」 「だろ?新商品。最近の俺のお気に入り」 にっと笑った悠さんが弁当の蓋を返して見せてきた。 『ごろごろ唐揚げ弁当』と書いてあった。 確かに大きめの唐揚げが三種、たっぷり入っている。 俺は曖昧に笑って自分の弁当に目を落とした。 しばらくお互い無言で食べる。 何も話さなくても、いつもなぜか悠さんは機嫌が良くて、時折盗み見る……いや、時折そっと視線を上げると、微かに笑みを浮かべて美味しそうに食べている。 今も、美味しそうに大きな唐揚げに豪快に齧り付いている。 つられて俺も笑みを浮かべそうになって、咳払いをしてごまかした。

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