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9-スキ、キライ、スキ(4)
悠さんの言うことはもっともだ。
まだ実害も受けていないし、確実に受けると決まっているわけでもない。
もしかしたら前回の警察からの警告が効いていて、手紙を送るだけで満足するかもしれない。
それでも……それでも、何をやらかすか分からないじゃないか。
相手は悠さんの家をもう知ってるんだ。
やろうと思えば、留守中に入り込むことだってできないことじゃない。
コンサートやイベント時に他のファンに紛れて近づかれたら、悠さんだって気づけない。
悠さんに近づかれたら?
近づかれたら、どうする?
何かあったら、どうする?
は?!何かってなんだよ!何をされるっていうんだよ?!
「なあ、おい、颯人?おーい。はーやとー。聞こえてないのか?大丈夫か颯人」
悠さんは軽くパニックになった俺の隣に腰を下ろした。
俺の手を取って自分の膝に置き、とん、とん、と軽く宥めるように撫でてくれた。
穏やかな声で続ける。
「心配してくれてありがとな。でも、これ送ってきた人、前に見たろ?小柄な女性だったろ?万が一、万が一だぞ、この人が襲い掛かってきても、俺はてめーの身を守れる自信がある。大丈夫、大丈夫だ颯人、安心しろ」
悠さんの声が耳から入ってきて、心を優しく、温かく包む。
赤ん坊のおくるみみたいに。
だんだん氷が解けるように落ち着いてきた。
「すみません。取り乱しました。大丈夫です。すみません。ありがとうございます」
俺が動揺してどうする。
そうだ。俺の場合とは違うんだ。
相手は非力……かどうかは分からないけど、身長差だけで二十センチ以上小柄な女性なんだ。
例え不意を突かれても、悠さんは自分で自分の身を守れるだろう。
心配し過ぎだ。俺。
「ふふっ、ありがとな。そんなに颯人が俺のこと心配してくれるのは、それはそれですげぇ嬉しい」
声も顔もゆるゆるになった悠さんがどさくさに紛れて抱きついてこようとするので、額を手のひらで押さえて牽制した。
「もう大丈夫です。落ち着いたんで。失礼します」
弁当の包みを取り上げて、俺はソファを立った。
所長が食事から帰ってきたので、例の手紙について報告する。
とりあえず、手紙を送ってくるだけのうちは様子を見て、ストーカー行為が始まったら早急に警察に連絡しようという話になった。
所長も、悠さんと同じくらい冷静だった。
取り乱したのは結局俺だけだ。
まだ悠さんを赦したわけじゃないってのに。
何やってるんだ、俺。情けない。
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