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9-スキ、キライ、スキ(5)

手紙はほぼ毎日届いた。 内容は決まって、蟻の行列のファンレターと、黒髪の束。 いつも午前中に配達されて、昼休みに郵便受けを覗くと白い封筒が入っている。 事務室の片隅にボール紙の箱を置いて、その中に封筒を溜めていたら、あっという間にいっぱいになった。 手紙一通一通が分厚いのだ。 重ねて二つ折りにされた便箋は日を追うごとに少しずつその枚数を増やし、封筒の厚みを増していった。 「ほんとマメだな。毎日毎日」 今日配達分の封筒を開封する悠さんを見て、桧山さんが皮肉に唇を曲げた。 「よく書くネタが尽きないもんだ。俺ならどんなに頑張っても二日で尽きるぜ」 「根性だけは評価してもいいかもな。あとはその情熱をもっと有意義に使ってくれたらいいんだけどな」 髪の束を器用に避けながら便箋を取り出す悠さん。 呆れたことに、悠さんは生真面目に毎日手紙に目を通している。 そこまで付き合ってやる義理はないのに、と俺は思う。 悠さんに何回かそう言ったけれど、その度に悠さんは少し悲しそうに笑って言う。 「ちょっと余計なオマケついてるけど、手紙寄越すだけなら罪はねぇからなぁ」 その笑みを見るたびに、俺は心の奥が煮えたぎる鍋のように苛つくのを止められず、黙って悠さんに背中を向ける。 この感情は何なのだろう。 嫉妬?馬鹿を言うな。 なんで俺がストーカーに嫉妬なんてしなきゃいけない。 だいたいまだ悠さんのことだって赦していないのに。 毎日毎日、白い封筒が視界に入る度に、俺は奥歯を噛み締めて目を逸らす。 ともするとその女性に、俺に赦しを求める悠さんの影が重なりそうになるからだ。 そんなこと認められるわけがないだろ? だから言うことをきかない心に蓋をして、俺は手紙の入った箱から顔を背ける。 「本人はまだ来ないんですか?」 二宮さんが悠さんに聞いている。 「おいおい圭吾、さらっと怖いこと言ってくれるな。今は手紙だけだから相手してられっけど、ストーキングは完全アウトだろ。本人来たら俺ははばかりながら全速力で警察に駆け込むぜ」 悠さんが苦笑している。 そう。笑ってられるのも今のうちかもしれない。 だから、義理堅く手紙なんて読んでないで、あの人が現れるのを待ってなどいないで、今すぐにでも警察に届け出るべきなのに。 悠さんの思惑が分からない。 俺の心境と、悠さんの考えがかみ合わない。 俺は今日も、手紙の入った箱をゴミ箱にぶち込みたい衝動と戦う。

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