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9-スキ、キライ、スキ(8)
「ご両親はこれからいらっしゃいますか?」
少し落ち着いた創くんに聞く。
「う、うん。父さんも母さんも今こっちに向かってるはずだよ。俺らは学校が近いから先に来れたの」
そのあと、悠さんのご両親も病院に到着した。
俺は分かっている限りの状況説明をして、五人で治療室の扉を見つめた。
待っている時間は永久のように思えて、何度も腕時計を見たが、壊れているのではないかと思うくらいに針が動かなかった。
待ちに待って、ついに永遠が終わる時が来た。
白い扉が開いて、医師が出てきた。
「小原悠さんのご家族ですか?」
ご両親と双子が呼ばれる。
……俺はそこには行けない。
ややあって、すぐに彼らは戻ってきた。
「越野さん!悠大丈夫だって!!」
幸くんが出てくるなりきらきらの笑顔で教えてくれた。
俺は途端に糸の切れたマリオネットのように全身の力が抜けて、その場で床に座り込んだ。
幸くんも俺に合わせてしゃがんでくれて、笑顔で続ける。
「しばらく入院だけど、命に別状はないって!すぐに救急車呼んでくれたおかげで助かったって!越野さんありがとう!」
幸くんはもう泣いている。俺にしがみついて、ありがとう、ありがとうと繰り返す。
ご両親にも礼を言われた。
幸くんにつられて俺も視界がにじんだ。
◇ ◇ ◇
落ち着いたところで所長に報告をする。
「――そう、良かったわ……今日は帰れそうなら帰って休みなさいな。明日は後始末が待ってるわよ。疲れてると思うけど、越野くんじゃないとできないから。……よろしくお願いね」
電話を切って、そういえば俺の服も血で濡れたことを思い出した。
もう、とうに乾いてしまっている。
小原家の面々に挨拶をして、俺はタクシーを呼んだ。
やがて来た車に乗り込んで、行き先を告げ、俺は意識を手放した。
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