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9-スキ、キライ、スキ(10)
タクシーはいつまで経っても見慣れた道を通らなかった。
「山岡さん?」
謀られた気がする。
「山岡さん、さっき運転手さんに渡したメモ、どこの住所が書いてあったんですか?」
「何言ってんだ、事務所の住所だぜ」
「私の目を見て答えてください」
明後日の方を見てすっとぼける山岡さん。
忘れていた。
山岡さんは悠さんの味方なのだ。
確信した。この車は、今間違いなく病院に向かっている。
「私、お見舞いには行きませんよ」
「うん?見舞いって何の話だ?事務所帰るんだろ?」
「……」
じと目で山岡さんを見る。じっと見る。
「あー、分かったわ、悠の気持ち」
「は?」
唐突に山岡さんが言いだした。
「拗ねてる颯人、いじらしくて可愛い。こりゃ悠も落ちるわ」
は?!
「そ、そんなこと訊いてません!山岡さん?!」
「可愛さに免じて白状します。今病院向かってます」
「私は降りませんよ」
「何言ってんだ、颯人だけ降りなかったらタクシーの運転手が困るだろ?悠に頼まれごともあるんだ。病室まで行くぞ」
「行きません。私外で待ってます」
「じゃあ悠に言って、悠に外に出てこさせる。颯人が来てるって言えばあいつ大喜びで飛んでくるだろ」
「……」
口では山岡さんに勝てない。八方ふさがりだ。
「とりあえず病室の前まで行ってやってくれよ。な?ちらっと顔見せるだけでいいからさ。別に無理に話とかしなくていいからさ」
顔を見せた時点で、もう話をせずに帰ることは不可能だと思う。
散々抵抗したが、結局いつの間にか、病室の前までは行くことにされた。
タクシーを降りて、外科病棟へ渋々向かう。
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