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9-スキ、キライ、スキ(12)
「座ろ?な?」
ベッドに並んで腰を下ろした。なんとなく悠さんの手を俺の膝に乗せる。
「傷の具合はどうなんですか?」
「うーん。それ訊く?」
悠さんはなぜか渋い顔をする。
「え、訊きますよね普通。気になるじゃないですか。……まさか良くないんですか?」
「快方に向かっているよ」
目を逸らして妙な言いまわしをする。これは何か隠してる。
「何かやらかしたんですね?」
「いや、大丈夫。確実に治ってきてるから!」
「何やったんですか?」
「……その……な?この病棟、そっち側が中庭になってんの。で、向かいの病棟が小児病棟」
ため息しか出ない。
「で?子供たちと中庭で遊んでたんですね?」
「はい」
「それで?」
「え、う、もう俺のことはいいじゃん。なあ、もっかいキスしよ……?」
悠さんは強引に俺を抱き寄せると、キスをした。つつっと尖らせた舌が唇の隙間をなぞって、開けろよって催促する。
ぱくっと一瞬だけ唇を開いて、舌を挟み込む。
もちろんそのまま舌を捕らえていることなんてできなくて、舌はするっと俺の口内に入ってくる。
上顎をなぞられると無性に悠さんが欲しくなって、悠さんの手に指を絡ませて、反対の手で鎖骨と首筋、耳をなぞった。
次第に吐息が熱を帯びてくる。
悠さんは優しく俺の肩を押して、ベッドの上に押し倒す。
空いた手で、シャツのボタンが外されていく。一つ、二つ、三つ……。
露出した俺の肌に、待ちきれないように悠さんの唇が吸いついてくる。
鎖骨の下にちりっと痛みを残して、唇は下方へ向かう。
胸の突端をついばまれて、思わず声が出そうになって口を手で押さえた。
ちゅちゅっと口づけだか愛撫だかを受けて、涙目で悠さんを見上げる。
雄の目をしていた。
「……クソッ、なんで俺は腹に穴開いてんだ?恋人の想いにも応えられないなんて情けねぇ」
「いえ、私もなんか雰囲気にのまれちゃって……すみません」
ベッドに座り直した俺の膝に、悠さんが頭を載せた。
悠さんのゆるくウェーブのかかった髪に愛おしむように指を通す。
悠さんは俺の下腹に半分顔を埋めて、うっとりと目を閉じている。
「あー……今なら死んでもいいかも」
「ちょっと、やめてください。縁起でもない」
「だって幸せなんだもんよ。颯人と仲直りできたし、甘えてくるの可愛いし」
俺の手をとって、指先に口づける。
「颯人が救急車とか呼んでくれたんだろ?ありがとうな。あの時、俺何があったのかもよく覚えてないんだけど、颯人がいて、手を握っててくれて、俺、この手を絶対離さないって、颯人と一緒に行くって頑張ったんだけど、目が覚めたら颯人どこにもいなくてがっかりしたんだぞ」
膝の上から悠さんが真剣な目で見つめてくる。その視線があまりに眩しくて、思わず片手で悠さんの目元を包み隠した。
「救急の方、苦労してましたよ。悠さんがあんまり一生懸命私の手を握ってるから。握ってたら、病院で困るでしょう?」
「はぁ?なんだよ、引っぺがしたのかよ。冷てぇな」
「ふふ。……あ、ほんとにクマできてますね。やっぱり夜眠れないですか?」
「ひでー顔してるだろ?駄目だな。昼間、人の声がしてる時は寝れるんだけどなぁ。大部屋にしてくれって言ってみたけど、空きがないって言われちまった」
悠さんが指先を唇で軽く食む。甘えてるのは悠さんのほうじゃないか。
「早く退院してください。ね?そしたら、その……一緒に寝られますし」
悠さんがくすぐったそうに笑って、俺の頬に手を伸ばした。
「なに、言ってて恥ずかしくなっちゃった?顔赤いぜ」
「恥ずかしくないです」
「ほんとに?頬っぺた赤いのかわい」
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