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9-スキ、キライ、スキ(13)

「で、傷の具合はどうなんですか?中庭で何があったんですか?」 「あれ、うまくごまかしたつもりだったんだけど。忘れてくれなかったか」 「当たり前です」 悠さんは深くため息をついた。 「鬼ごっこしてたのな。子供らと。そしたら脚がもつれちゃって転んだのな」 「……」 呆れて言葉も出ない。この男の辞書に懲りるという単語は載ってないのか。 「転んだ場所が悪くて、ちょうど傷口に花壇の角が当たって、傷口開いちまってさ。そりゃもう大惨事だった。医者にガチで怒られた」 今度は俺がため息をつく番だ。 「本音を言ってもいいですか?」 「や、だめ」 「このクソッタレショタコン野郎、いっぺんショタにぶん殴られていい加減目を覚ましやがれ!」 「……はい。ごもっともです。すみません」 「悠さん風に心境を言ってみました。殴る方は今度三ツ橋さんにお願いしておきます」 悠さんはちらっと顔色をうかがうように俺を見上げて、その身を小さくした。 「でもよ、ここにいるとやることねーんだよ。ピアノ置いてあるんだけど、目立つことすんなって所長に言われちまったし。良太の馬鹿は頼んだもの持ってきてくれねーし」 あ、そうだ。 「五線紙なら持ってます。あと悠さんのボールペン」 実は、見舞いには行かないと言っておきながら、何となく気になって、五線紙と悠さんのペンは常に持ち歩いていた。 さっき放り出したバッグを取ってくると、中からクリアファイルとペンケースを取り出した。 「たぶん欲しいんだろうなと思って……」 「さすが!さすが颯人!分かってる!」 ご褒美と言って、悠さんは額にキスをした。 「ふふ。ありがとうございます」 しかし、ふと悠さんは眉根を寄せた。 「颯人、さっきこのバッグ放り投げたよな。このペン入ってるバッグを。これよーこー先生の遺品だぞコラ」 「すみません。だって悠さんが起き上がろうとするから。……それを言うならこのペン、スタジオのど真ん中の床に落ちてましたよ。ペン先出しっぱなしで」 「ぅえ、まじ?ま、そういうこともあるよな!」 「はあ……もう、調子いいんだから」 ため息が出るけれど、どうしても自然に顔が緩む。 隣に悠さんがいて、キスしてくれる。こんなの幸せに決まってる。 「あー……。もうダメだ。颯人大好き。愛してる」 突然悠さんが起き上がってがばっと抱きついてきた。 「本気でショタなんかより好き。お願いだからもうそろそろ一緒に暮らそ、な?」 頬擦りしながら耳許で懇願された。 「ふふ。何言ってるんですか。……まあその、退院しても独りじゃ不自由でしょうし、悠さんの家に、しばらく、お世話になっても、良いですか?」 途端にキスの雨が降ってきた。くすぐったい。 「しばらくじゃなくてずっと居ろよ」 「いえ、そういうわけには」 「やだ。ここんとこずっとまともに颯人の顔見れないし、ろくに会話もしてくれないしで寂しかったんだぞ?もう我慢できない。ムリ」 悠さんは真剣な顔で俺の目を覗き込んでくる。 「結婚か同棲か、選べ」 「その二択なんですか?……しばらく考えさせてください」

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