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10-大団円(2)
冷める前にオムレツを皿に盛って、冷蔵庫に入っていたミニトマトを添えて食卓に出した。
「悪いな、作らせちまって……具なしスペインオムレツ?」
この野郎、俺の自信作になんて言いがかりだ。
ま、失敗してるけどさ。
「オムレツの開きです」
「ああ……うん。ぱっかん開いてんな。……もしかして颯人、料理苦手なのか?」
「違います。集中して巻いてる途中で悠さんが話しかけてくるから失敗したんです」
思わず負けず嫌いの性分が顔を出して、ムッとしながら言い訳した。
言いながら思った。あ、これ、可愛いって言われるやつだ。
「強がるなよ、可愛いだけだから」
ほら。おいこらにこにこ笑うんじゃない。
キスもやめろ。せっかくさっき俺が我慢したのに。
抱きしめるな!
「俺がコツ教えてやるよ」
え?
そう言った悠さんがキッチンに入ってきて、冷蔵庫から卵を取り出す。
「このボールでいっか」
なにこの男。こんパカッて、片手で、しかも一瞬で卵割った。
塩胡椒を投げ入れて、カシャカシャと音を立てて卵をよく混ぜる。
手つきが……手つきがもう俺とは違うんですけど。
「フライパン暖めといてくれ」
「は、はい」
わたわたと再びフライパンを熱する。
「フライパンは必ず暖めとけ。で、とき卵いれたら半熟になるまでよく混ぜる」
みるみるうちに卵に火が通っていく。
「よし。これくらいまで火が通ったら形を整える。菜箸もいいけど、難しいならいっそゴムベラ使っちまうのがいいかもな」
え、え、え。
なんだこれ。
神々しいくらいに完璧なフォルムをしたオムレツが皿に移された。
俺の円盤形をした卵焼きとは完全に別物だ。
「じゃあ、これ颯人の分な」
悠さんが作ったのを俺に寄越そうとするから、止めた。
「いやいや、悠さんが作った方が綺麗なんですから。そっち食べてくださいよ」
「ん?俺は当然颯人が作ったやつ食べるぞ?」
「いえ、私の開いてますから」
「だァめ、俺は颯人の手料理を食いたいの。あ、なあなあ、ケチャップでハート描いて」
悠さんは平然と恥ずかしいセリフを口にした。
「やです。恥ずかしい」
「描いてくれなきゃ、俺は今日仕事しねぇぞ。な?いいだろ?ちょろっと描くだけだからさ」
ケチャップを手渡されて、丸い卵焼きの上に渋々描く。
「えー。ちっちぇえ。せっかく広いんだからもっといっぱいに大きく描いてくれよ」
こうなりゃやけくそだ。
小さく描いたハートを囲むように、大きなハートを描いてやった。
続いて悠さんが、自分で作ったオムレツにも丁寧にハートをいっぱい描いた。
何やってんだ、俺たちは。もう。恥ずかしい。
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