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10-大団円(4)
「あぁあぁあ~!ヤダ、やっぱ今日は仕事したくねぇ!」
朝食を食べ終わって、外出の支度まで済ませた悠さんが、今になってごね始めた。
ソファに寝転がってごろごろじたばた……まではしないけれど、しそうな勢いで、寝転がってクッションに顔を埋めている。
「ワガママ言ってないで、早く行きますよ」
「ヤダ」
ちょいちょいと悠さんが手招きをするので近寄ったら、巻き込まれた。
抱き枕のように抱えられて、一瞬でワイシャツがくしゃくしゃになる。
「今日が何の日だか知らないのか?」
俺の胸に顔を埋めるようにしながら悠さんがもごもご言う。
「知ってますよ。だから仕事が入ってるんじゃないですか」
「ひでぇな。ロマンとか情緒ってもんがまったくねぇ」
今日は十二月二十四日、クリスマスイブだ。
定番のクリスマスコンサート。しかも今年は二部制にした。
昼の部と夜の部。夜の方が内容が濃いのでチケット代もちょっと割り増しだ。
「そういう商売なんですから仕方ないじゃないですか。お客さんは今日を楽しみに来てくださるんですよ?私も毎年仕事休んで聴きに行ってましたし」
「はぁ?!なに休んでんだよ。仕事してたらもっと早く出会ってたかもしれねぇのに」
悠さんのクリスマスコンサートは毎年国立音楽堂を使っている。
そう。俺の前の職場だ。
「だってクリスマスくらい好きに過ごしたいじゃないですか」
「それなんだよ!分かってんならコンサートなんか入れてねぇで、休みにしとけよ!」
「悠さんにはお客さんのクリスマスイブという日を演出するっていう大事な使命があるんです。休みになんかできませんよ」
「イヤだぁ、俺は颯人と二人きりでしっとりゆっくり過ごしてぇよ」
甘いキスをして、な?と同意を求められる。
「今日が終われば、明日……はイベントがあるのか、明後日……も駄目ですね……どっかで半日くらいはゆっくりできますよ」
「おい颯人、俺の目を見て言えよ。ねーだろがそんな日。さっき颯人の手帳見たが、全部埋まってたぞ」
じと目の悠さん。
「逆に考えてくださいよ。予定が埋まってるってことは、その間は一緒にいるってことじゃないですか」
「じゃあ颯人もステージ上がれよ」
「ご冗談を。意味分かんないです。私は袖でちゃんと聴いてますから。ね?」
ね?で俺からキスを返したら悠さんはちょっと黙った。
「……じゃあこれから八日間、全部颯人のために弾くから、心して聴けよ」
恐れ多いことで。
俺たちはその後も時間ギリギリまでソファで遊んでいた。
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