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10-大団円(5)

おふざけが本気に変わる前に、ソファでの睦み事を切り上げて、俺は悠さんを促して仕事に向かった。 悠さんはまだ不平たらたらだけれど、そんな悠さんに仕事をさせるのも俺の仕事だ。 約一年ぶりの音楽堂。見知った顔はまだあるだろうか。 久しぶりの再会に、少し心が踊る。 「なぁ颯人、もしかして今日正装?」 後部座席でふて腐れた悠さんが聞いてきた。 「クリスマスなんですよ。当り前じゃないですか」 「えぇぇ……大丈夫かな」 ぼそぼそと悠さんが心配そうに呟く。 「大丈夫って、何か問題でもあるんですか?」 「最近正装してなかっただろ?入っかなぁ……」 聞き捨てならないセリフを零した。 「まさかとは思いますけど、太った訳じゃないですよね?」 確かめると、悠さんはむきになって否定した。 「脂肪じゃねぇ!筋肉だ!……ここしばらくジムに通ってただろ?二の腕と胸周りと太ももがちょっと……」 「そういうことは早く言ってくださいよ!現場着いたらすぐに確かめてくださいね!合わないなら急いで手配しますから。だいたいなんでジム通いなんて始めたんですか?そういう汗かくの嫌いじゃないですか」 俺が訊くと、悠さんは居心地悪そうに通り過ぎる街並みに視線をうつした。 「夏に海行ったろ?そん時にもうちょっと体力があった方がいいかなーって思ったんだよ。前に変態野郎を追い払うのだって、結構手こずったし、さ…………しっかり颯人守りたいから」 最後の一言はごくごく小さな声だったが、確かに聞こえた。 俺は顔が熱くなるのを感じながらルームミラーから目を逸らした。 とても恥ずかしくて今は悠さんの顔なんて見てられない。 「私は……大丈夫です。自分の身は自分で守ります」 「守れてねぇじゃねーか。気が気じゃねぇんだよ、傍から見ててさ」 「ぅ……まぁ、そうなんですけど……。私のために悠さんが喧嘩して怪我なんかしたら嫌なんです!私の立場がないじゃないですか……。それだったら私が大人しくしてた方がまだマシです」 それを聞いて悠さんがシートにもたれていた体を勢いよく起こして、俺の座席の肩を掴んだ。 「俺が不甲斐ないせいで颯人が犯されんの黙って見てろってか?!冗談じゃねぇぞ!そんなんできるわけねぇだろ!……はぁ……傷ついた颯人を見るのはもうヤなんだよ……」 車内の空気が湿気をおびて重くなる。 仕事前にこの雰囲気はマズい。 俺が折れることにした。 「だったら、私が悠さんの傍から離れなければいいんですよね?」 「ん?んー、まあそうだな」 先日の悠さんの言葉……結婚か、同棲か……にまだ答えていない。 「もう少し、もう少しだけ、考えさせてください」

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