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10-大団円(7)
「越野さーん!ちょっと確認させてください!」
事務室を出てステージに向かう途中、会場スタッフに呼び止められた。
「本番の動線なんですけど……」
「あ、それは悠さんに訊かないと分かんないな。気分で変わるから。楽屋まで来てもらってもいい?」
「はい」
しかし、楽屋には悠さんの姿はなかった。
一人に退屈して、どこかでふらふらしているのだろう。
「時間ある?連れてくるからここで待ってて!」
俺は楽屋を飛び出すと、悠さんがいそうなところを覗いて回った。
休憩スペース、守衛室、トイレ、ロビー……ん?
ロビーを走り抜けそうになって、慌てて戻った。
ロビーの片隅で、俺の知らない若い男性会場スタッフと悠さんが楽しそうに話していた。
「悠さん!何やってるんですか……探したんですよ……」
息を切らして傍に寄ると、話し相手は会釈してどこかへ消えた。
「楽屋に一人でいてもつまんないだろ。ここ来たら誰かいねーかな、って思ってさ。ほら、颯人がここでみんなと作業してて、そこに俺が顔突っ込んだのが最初だったなって懐かしくて」
目を細めて嬉しそうに話す悠さんを見ていると、怒る気は失せてしまった。
「あの頃はまだ、小原悠がまさかこんなワガママだなんて知りませんでしたからね。気さくでいい人だなってまんまと騙されましたよ」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ。で?俺に何の用?」
「あぁそうでした。確認事項があるらしいので、楽屋に戻ってください」
「ん」
返事をして、きょろきょろっと辺りを見回したかと思うと、悠さんが俺にキスをした。
「~~~~~!!っ何考えてるんですかっ?!」
悪戯っぽくけけ、と笑う悠さん。
「ちゃんと周りに誰もいないの確認したから大丈夫」
「人目がなければOKなわけないでしょう!場所をわきまえてください!!」
「ヤだね。俺はキスしたい時にキスすんの。ワガママ王子だから」
「何開き直ってるんですかっ!さっさと楽屋にっ?!」
悠さんに急に抱きしめられて、言葉が途切れる。
「はいはい怒んないで。一緒に戻ろーぜ」
楽屋に戻ると、待っていたスタッフがむくれた俺と上機嫌の悠さんを見て戸惑っていた。
「え、えぇと、小原さんに確認したいことがあるんですけど……越野さん、怒ってます……?」
◇ ◇ ◇
どたばたしたのはこれくらいで、本番も含めて後は問題なく済んだ。
悠さんの機嫌さえ良ければ、大体のことはうまくいく。
そして、悠さんの機嫌を左右できるのは俺だけ、……なのか……?
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