8 / 31
第8話
「初めて、心奪われたのですよ。あなたに。ただの奴隷にすぎないはずの、愚かしい人間に対して、初めて心奪われたのです」
そう。自分以外の存在は、無力な奴隷。
私の意のままに動き、踊り、その果てに死ぬ、ただの傀儡。
それが、初めてこのウァラウムの心を動かした。
その美貌で、その闘志で、その気高さでもって、心臓をわし掴んだ。
「本当に……小癪な花一輪……小癪な私のアルトニー……」
しかし、その一輪の花・毒一滴が、ウァラウムの心を狂わせた。
死にゆく定めを持つ人間を、刹那のひととき引き留めようという暴挙に誘った。
「アストラル・ボディと言えども、感じるはずです。アルトニー、私と最後の思い出を作りましょう」
「なッ!」
両の頬を大きな掌で挟まれ、アルトニーは身動きとれぬままウァラウムと口づけていた。
思わず、硬く唇を結ぶアルトニー。
だがウァラウムは構わずその上から舌で舐め、唇で食み、歯を立てた。
彼の唾液がアルトニーの顎をつたい、流れてゆく。
ともだちにシェアしよう!