15 / 259
第一章・15
いいから服を着ろ、と言う明の言葉に愛は頷いて、のろのろと服を整えた。
沈黙が重い。
明は頭をがりがりとかいて、言葉をひねり出した。
「その、夕方お前に酷いことした奴らがいたんだろ。あいつら、知り合いなんだよ。悪かったな」
「いいんです。慣れてます」
オレは違うから、というのはいかにも言い訳臭くなる。
話題を変えた方がいいようだ。
「愛、ってのはいい名前だな。うん」
「ありがとうございます。源氏名ですけど」
「源氏名!?」
「先生に水揚げされる前、お店にいたんです」
「お店、ってお前いくつだよ」
「さあ」
「誕生日とか、あるだろ」
「知りません」
「じゃあ、本名は?」
「ずっと愛、って呼ばれてましたから、忘れてしまいました」
ともだちにシェアしよう!