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第一章・16

 愛は、どこまでも淡々と言葉を返す。  柔らかい微笑をたたえてはいるが、その眼だけはやはり笑わないのだ。  お店とやらでおもちゃにされ続け、感情というものが欠けてしまったのだ、と明は気づいた。  そして自分も、その『お客様』と思われていたに違いない。  思考回路が、そんなふうに物事をとらえるようになってしまっているのだ。  愛の笑顔はそれでも美しかった。  明は、自分が愛に特別な美しさを感じた理由が解かった。  愛はただ見かけが美しいだけではなく、汚泥の中からでも首を伸ばして咲くスイレンの花のようなのだ。  しかし、酷い境遇も平然と受け止める強さは一方で危うかった。  いつか、ぽきりと折れてしまうのではないかと、明の胸をざわめかせた。  何か、支えになるものを見つけてあげたかった。 「じゃあ、お前の誕生日を決めに行こうぜ」 「誕生日を決める?」 「天文台の星見のジジイに決めてもらうんだよ。星の導きとやらに従ってな」 「私に、誕生日が」 「オレの誕生日も、そうやって決められたんだ。お前にだって誕生日ができるんだぜ。そんでよ、お前の守護星座を探そうぜ。なんたって魔闘士になるんだからよ」  愛の眼に少しだけ光がさした気がした。  そうと決まれば、と明は愛の手を取って納屋の外に出た。  月はとうに沈み、降るような星空の光が道を照らしていた。

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