16 / 259
第一章・16
愛は、どこまでも淡々と言葉を返す。
柔らかい微笑をたたえてはいるが、その眼だけはやはり笑わないのだ。
お店とやらでおもちゃにされ続け、感情というものが欠けてしまったのだ、と明は気づいた。
そして自分も、その『お客様』と思われていたに違いない。
思考回路が、そんなふうに物事をとらえるようになってしまっているのだ。
愛の笑顔はそれでも美しかった。
明は、自分が愛に特別な美しさを感じた理由が解かった。
愛はただ見かけが美しいだけではなく、汚泥の中からでも首を伸ばして咲くスイレンの花のようなのだ。
しかし、酷い境遇も平然と受け止める強さは一方で危うかった。
いつか、ぽきりと折れてしまうのではないかと、明の胸をざわめかせた。
何か、支えになるものを見つけてあげたかった。
「じゃあ、お前の誕生日を決めに行こうぜ」
「誕生日を決める?」
「天文台の星見のジジイに決めてもらうんだよ。星の導きとやらに従ってな」
「私に、誕生日が」
「オレの誕生日も、そうやって決められたんだ。お前にだって誕生日ができるんだぜ。そんでよ、お前の守護星座を探そうぜ。なんたって魔闘士になるんだからよ」
愛の眼に少しだけ光がさした気がした。
そうと決まれば、と明は愛の手を取って納屋の外に出た。
月はとうに沈み、降るような星空の光が道を照らしていた。
ともだちにシェアしよう!