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第一章・17
天文台は思いのほかあわただしい空気に包まれていた。
いつもの倍は人間がうろついており、それぞれが小声で話し合ったり、望遠鏡を覗き込んでは本に目を落としたりと気忙しい。
明は愛を伴い、最上階の一室のドアを開けた。
「よぅ、ジジイ。生きてるか?」
「その声は明だな」
振り向いた男は、ジジイよばわりするにはまだ申し訳ないくらいの容貌をしていた。
頭にはまだ白いものは少ないし、姿勢もしゃんとしている。
ひとつあげるなら、その豊かに蓄えたひげが明に老人の印象を与えているのかもしれなかった。
「お前、また」
星見の男は、明の隣にいる愛に気づいてため息をついた。
「ここをデートスポットにするなと、あれほど言ってるだろう」
愛が、明をちらりと見る。
「ばっ、馬鹿野郎。人聞きの悪い事いうな!」
がはは、と大声で笑った後、男は手をひらひらと振った。
「悪いが今夜は忙しい。構ってはやれんが、望遠鏡は勝手に使っていいぞ」
そう言いながら、もう明に背中を向けている。
「おい。そりゃねえぜ」
男の肩をつかんで向きなおさせると、明は愛を前に押しやった。
「こいつ! こいつを見てやってくれよ。誕生日とか、年齢とか、守護星座とか!」
「困ったヤツだな」
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