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第一章・21

 明は上機嫌で手近にあった望遠鏡を覗き込み、愛を呼んだ。  せっかくなので、小一時間ほど愛に星を見せたかったのだ。  ところが、ドアを開けて入ってきた男の助手に、この考えは阻まれてしまうことになった。 「申し訳ないが、左近充くんは席を外してもらえないか」  君も、と愛にも声がかかる。 「なんでだよ。オレ達が居ちゃ悪いのかよ」  食って掛かろうとする明を、愛が慌てて止めに入った。 「今夜はもう遅いですから、これでおいとましましょう」  ぶつくさいいながら出て行った明の踏み鳴らす足音が遠くに消えたことを確かめ、助手は星見の男に切り出した。 「花迷宮の魔導薔薇に、つぼみができたそうです」  男はその言葉に目を見開いた。  前大戦以来、花開くことのなかった魔導薔薇。  それにつぼみが。 「咲きそうか?」 「それはまだ。なにせ、先ほど確認されたばかりですので」  これまで何人もの魚座候補生が出現するたびに、つぼみができたことはあった。  だが、それが無事咲いたためしはなかった。  愛によって作られたつぼみだろうか、と男は考えた。  これが開けば、愛は間違いなく魚座の大魔闘士の器だ。  しかし、それは新たな大戦が近づいている警鐘でもあった。  窓から身を乗り出し、天を仰ぎ見ると星々が美しく瞬いている。  地に目を落とすと、明と愛の影が見えた。  私はあの子たちに過酷な運命を与えてしまったのかもしれん、と男は唇を噛んだ。

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