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第一章・44
「眼、ちょっと腫れてるな」
愛は、返事をせずに指先をまぶたに当てた。夕方、泣いたことを言っているのだ。
「ごめんな」
それだけ言うと、明は愛とすれ違うようにして立ち去った。
愛の足音が、自分とは反対方向に小さくなっていくのを明は歩きながら聞いた。
五人の少年を殺めたことは、まったく悔いてはいなかった。
ただ、自分が人殺しをしたことに泣いた愛にはまいった。
人を殺すという事は、そんな一大事だったのか。
(嫌われたかな)
まったくもって自分らしくない弱気が、首をもたげた。
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