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第一章・45
集合場所には、すでに数名の少年少女が集まっていた。
みんな愛より背が高く、体つきもしっかりしている。
和やかに談笑する姿に、愛はほっとしたが、それもつかの間のことだった。
「遅れてすみません」
息を切らせて駆けつけた愛に向けられた顔は一瞬で、しかも冷たかった。
すぐに何事もなかったかのように話を続ける姿に、はっきりと敵意が感じられた。
話の輪に混ざることもできず、どれくらい経っただろう。
ずいぶんと時間が長く、重く感じられた。
もういっそのことおいとまして、明の元へ行ってしまおうかと考えた時、輪が崩れた。
「紗英(さえ)さん!」
魚座の少年少女は、口々に名を呼んだ。
「待たせたね」
紗英と呼ばれた少女は、ぐいぐいと輪の中に入っていく。
体格は良く、もう成人女性の体形に近い。
愛は、紗英の影に隠れて、少しだけ輪に近づいた。
「みんな揃ってるね。じゃあ、例のものを」
なんのことだろう、と愛が不思議に考えていると、他の魚座はそれぞれポケットや袂から小さなものを取り出している。
月明かりとカンテラの小さな明りに浮かんだそれは、バラのつぼみだった。
だが、どれもこれもしおれてくすんでいた。
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