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第一章・47
しかし、それを見て愛はしまった、と感じた。
誰のつぼみもしおれているのだ。自分ひとり生きたつぼみを持っていたら、ひどいやっかみを受けることは火を見るより明らかだった。
案の定、紗英の顔色が変わった。
「あんた、それはどうしたんだい!?」
「これは、その」
周囲からも、責めるような視線と声とが浴びせられた。
「きっと、今日摘んだばかりなんですよ」
「普通のバラじゃないの?」
おろおろする愛の腕を、紗英が強い力でねじ上げバラのつぼみを取り上げた。
「返してください!」
「生意気言うんじゃないよ」
紗英は自分の胸元に、開きかけるほどほころんだバラのつぼみをさした。
「こいつはアタシがもらっといてやるから安心しな」
冗談じゃない、と愛は息をのんだ。
せっかく明からもらった贈り物を、はいそうですかと簡単に渡すわけにはいかなかった。
奪い返そうと手を伸ばし、愛は、いや、紗英までもが目を見開いた。
紗英の手に渡った途端、バラのつぼみは首をうなだれ、しおれてしまったのだ。
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