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第一章・51

「強情な子だね」  最後はやはり紗英だった。  骨の一本や二本、折られるかもしれない、と愛は覚悟した。  しかし紗英は、愛をいましめていた二人の魚座を下がらせると、地面にくずおれた彼を優しく抱き起こした。 「負けたよ。あんた、やっぱり魚座の大魔闘士なんだね」  愛は、ほっとして紗英を見上げた。  つらい試練は終わったのだ。  紗英の表情は、今まで見たこともない慈愛に満ちていた。 (いや、違う)  愛の記憶から、警戒のシグナルがけたたましく発せられた。 (この顔は、こういう表情は……危険ッ!)  身をひるがえして逃げ出そうとする愛を、紗英は抑え込んだ。 「仕方がないね。もう、こうするしかないね!」  紗英の両手が愛の細い首にかけられ、猛烈な力で締め上げ始めた。 「うぅっ!」  振りほどこうと愛はもがいたが、首にかけられた手はびくともしない。 「修行が辛くて逃げ出す候補生なんかいくらでもいるんだ。あんたひとりいなくなったって、誰も不思議に思わないよ!」

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