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第一章・52
首の骨を折る勢いで、紗英は愛を締め続ける。
愛は、意識が朦朧としてきた。
(私、ここで死ぬのかな)
死ぬことに恐怖を感じたことは一度もなかった。
死ぬかも、と思ったことは何度もあったが、それならそれで構わない、と思う事が常だった。
薄れゆく意識の中に、明の顔が浮かんだ。
一緒に歩いた月夜の花迷宮。
あのバラの花を、もう一度見たい。
明と一緒に見たい。
そう。この後、会う約束をしているのだ。もう一度会うまで死ねない。
死にたくない。
「やめて……私は、生きていたい!」
その時、愛の意識の中で、何かが弾けた。
音もなく弾け、見る間に拡がってゆく。
次から次に湧き上がってくるそれは全身を駆け巡り、やがて体の外へと濁流のように流れ出た。
ふ、と紗英の手から力が抜けた。
「なんだい。これは」
紗英の視界に、赤いぼんやりしたものがちらちらと浮かんだ。
魚座の少年少女のまわりにも、やはり赤いものがはらはらと浮いている。
「これは、花びら? バラの花びら?」
しだいに輪郭をあらわにし始めた赤いバラの花びらは、一枚、また一枚と増え続け、しまいにはそれぞれが一輪のバラの花となった。
宙に浮いた無数のバラの花々は、魚座たちの間をうねり始めた。
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