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第一章・53
「きれい」
「いい香り」
熱に浮かされたように、うっとりとバラの花に見とれる魚座たちに、紗英ははっと青ざめた。
「こっ、これは……まさか魔導薔薇!?」
紗英は慌てて愛の首から手を離すと、自らの鼻と口をふさいだ。
しかし、バラの香気はじわじわと肌からも浸透してくる。
愛は、むせながら体を起こし、ひとり、またひとりとバラの花の中に魚座が倒れていく様を見た。
「バラの花? どうしてこんなにたくさん。どうしてこんなところに」
ぼんやりとつぶやく愛の言葉を聞きながら、紗英は倒れた。
ノイズが入り始めた意識の中に見えた最後のバラは、愛が手にしていた魔導薔薇のつぼみだった。
ただ、それはもうつぼみではなく、美しく大きく花開いていた。
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