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第一章・55
林を抜けて、開けた場所に出たところで明は息をのんだ。
見渡す限りのバラ。
月明かりで、その赤い花びらが1枚1枚までよく見える。
真っ赤なバラの花々で埋め尽くされた中に、愛が放心したように座り込んでいた。
「愛! 大丈夫か!? 愛!」
ゆっくりと明の方に顔を向けた愛だったが、その眼はうつろである。
「左近充様。私、いただいたバラの花取り戻しました」
愛の手にするバラは、大きく咲き誇っていた。
明の思った通り、この異様なオーラは愛のものだったのだ。
明が愛の元へ駆け寄ろうとしたとき、突然強い力で肩を掴まれ引き戻された。
「左近充、魔装束をまとえ。今すぐにだ」
「入江さん」
肩を大きく回して、明は入江の腕を振り払った。
そんな事より、今は愛の方が心配なのだ。
言葉を無視して、明が今一度愛の方に足を踏み出すと、今度は両肩を掴まれ入江の方へと向き直らされた。
「言う事を聞くんだ。これはおそらく魔導薔薇。そのまま香りに浸っていると死ぬぞ」
では、と明は歓喜に震えた。
やはり、愛は魚座の大魔闘士だったのだ。
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