57 / 259

第一章・57

 医療所の一室に入った柊一は、うなだれて腰掛けている明の姿を見た。  何度来ても、同じ様子で座っている。  不遜でいつも自信にあふれていたこの男が、こんな姿を見せるのは初めてだ。 「その様子だと、岬はまだ起きないようだな」 「ああ」  わずかに顔を上げ、ため息混じりに返事を返す明。  愛の覚醒を誰よりも望み、誰よりも喜んだはずだったが、こうなるともう手放しでは祝うこともできない。  魔導薔薇をおさめた後、愛は入江の腕の中で昏睡状態に陥った。  もう丸一日、目覚めないのだ。  大魔闘士として目覚めたは良いが、そのまま廃人や死人になってしまった候補生の話がある。  精神や肉体に準備ができないままオーラが極大まで高まると、受け止めそこねた器は壊れてしまうのだ。

ともだちにシェアしよう!