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第一章・58

「このまま、こいつが起きなかったらどうしよう」  弱弱しい声でぽつりとつぶやいた明に、柊一は努めて明るい声で返した。 「縁起でもないこと言うな。俺を紹介してくれる約束だろう。三人で魚釣りをするんじゃなかったのか」  明は返事をせずに、愛の頬にかかる髪をそっと耳にかけてやった。  細い手首に指をあて、脈を確かめる。  大丈夫、まだ生きている。  昨晩から、何度同じ事を繰り返しただろう。  このまま死んでしまったら、と考えるとぞっとした。  明は、生まれて初めて死の影に怯えた。

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