62 / 259

第一章・62

「愛! よかった。もう、死んじまうのかと思った」  明の両の腕が、しっかりと愛の体を抱きしめた。  愛は、自然とその背中に腕を回した。  その背は、少し震えていた。 (泣いてるの? 私のために、泣いてくれているの?)  愛は、静かに目を閉じた。  涙があふれてくる。  人と抱き合う事が、こんなにあたたかいことに初めて気付かされた。  閉じたまぶたに影が落ち、愛は肩にもう一人の腕のあたたかさを感じた。  柊一だ。  抱き合う明と愛をすっぽりと覆うように、柊一の長い腕がまわされた。 (ああ。なんだかすごく懐かしい気がする。こんなこと、初めてのはずなのに)  ずっと昔から、そうして三人で生きてきたような。  これからも、ずっとこうやって三人で生きていくような。  そんな不思議な感覚を愛は感じていた。  ふ、と突然柊一の腕が軽くなった。  誰か部屋に入って来たらしい。  足音が聞こえる。  明は、名残惜しそうに愛から離れた。

ともだちにシェアしよう!