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第一章・62
「愛! よかった。もう、死んじまうのかと思った」
明の両の腕が、しっかりと愛の体を抱きしめた。
愛は、自然とその背中に腕を回した。
その背は、少し震えていた。
(泣いてるの? 私のために、泣いてくれているの?)
愛は、静かに目を閉じた。
涙があふれてくる。
人と抱き合う事が、こんなにあたたかいことに初めて気付かされた。
閉じたまぶたに影が落ち、愛は肩にもう一人の腕のあたたかさを感じた。
柊一だ。
抱き合う明と愛をすっぽりと覆うように、柊一の長い腕がまわされた。
(ああ。なんだかすごく懐かしい気がする。こんなこと、初めてのはずなのに)
ずっと昔から、そうして三人で生きてきたような。
これからも、ずっとこうやって三人で生きていくような。
そんな不思議な感覚を愛は感じていた。
ふ、と突然柊一の腕が軽くなった。
誰か部屋に入って来たらしい。
足音が聞こえる。
明は、名残惜しそうに愛から離れた。
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