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第一章・63
「やっと気が付いたね。よかった」
「入江様」
ひとつうなずいて、入江は愛のベッドに近づいた。
明が、ふいっとそっぽを向く。
泣き目を見られたくないのだろう。
そんな明を小さく笑って、入江は愛に向き直った。
「君は魚座の魔闘士として覚醒したんだよ。おめでとう」
「私が、魚座の魔闘士」
「そうだよ。これまでいろいろあったとは思うけど、全てはそのために準備されてきたことなのだと思えばいい」
入江の一挙一動、一言一句が、明にはひどく癇に障った。
いつもそうだ。
入江はいつも、人より一段高い所から全てを見渡しているようなところがある。
彼に、一体何が解かるというのだ。
愛の抱えている心の闇の暗さ深さを、ただの一言でつるりと片付けてしまおうというのか。
柊一が、そんな明の腕をつかみ軽く目線を合わせてきた。
落ち着け、ということだろう。
明は、苦笑いをしてそれに応じた。
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