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第一章・71
「いつ来ても、きれいな宮だよな」
明は何気なくそんな言葉を口にしたが、美しいものを素直に美しいと感じることができるようになったのは愛に出会ってからだった。
美しいものを土足で踏みにじることで、鬱屈した心を晴らしていた日々が嘘のようだ。
さりげなく、視線を愛に向ける。
その横顔は、西日に溶けてしまいそうだった。
人を殺め続けて一般社会からはじき出され、怪しい学校団体に入学することでさらに殺人を重ねるはめになった。
オレの人生、そんなものかと考えていた明だったが、愛の姿を見ていると、その罪の澱が溶けていく。
まるで自分が、浄化されるような気持ちになる。
「あ」
突然立ち止まって声を上げた愛に、明は飛び上がった。
「なっ、何だ!?」
どうやら自分は、この美しい少年にぼんやり見とれていたらしい。
赤面を隠そうと、明はわざとぶっきらぼうにふるまった。
「急に立ち止まるなよ。驚くじゃねえか」
「この大きな木。ここから横道に入るんじゃないのかな」
愛が指した先に、ひときわ大きなクルミの木があった。
確かに校長は、クルミの巨木から左に入れと言っていた。
「クルミの木から左へ、か」
明は足を踏み入れたが、そこにはこれまでのような石畳はなく、丈の高い草や灌木が生い茂りまるで行く手を塞いでいるかのようだ。
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