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第一章・72

「道なんかねえじゃねえかよ。ホントに大丈夫なのか」 「校長先生は、それから月に向って歩くようおっしゃったよ」 「月に向って、だと。ずいぶんアバウトだな。はっきり東、って言えばいいのによ。もったいつけやがって」  がさがさと草をかき分けながら、どのくらい歩いただろう。  ふと会話が途切れた時、 二人は甘い香りが漂ってくることに気づいた。 「バラの香りだ」 「明、見て。あれ!」 「……でかい」  あれは本当にバラの木なのか。  そもそも、バラというものはここまで大きくなるものなのか。  明は眼を疑ったが、バラの濃厚な甘い香りは確かにそこから流れてくる。  先ほどのクルミの木より、ひとまわりは大きいバラの巨木が二人を迎えた。  信じがたいことに、赤や白、黄色に桃色など、あらゆる色のバラの花がその木には咲いている。  よくよく見てみると巨木は一本ではなく、たくさんのバラの木が複雑に、ひとつに絡み合って成り立っていた。  老いた木が枯れれば、また新しい若木がその代わりをするように生え、脈々とこの木々の歴史を作ってきたに違いない。

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