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第一章・73

「あそこに魔装束があるって校長先生は言ってたけど」 「行ってみようぜ」  さらに行く手を阻むように伸びているツルバラに何度も足をとられながら、明と愛はバラの巨木へとたどりついた。  甘い香りは最高潮に達し、ふたりは脳がかき回されるかのような感覚に襲われた。 「早いとこ大魔導衣をもらって離れようぜ。長く居ると倒れちまうかもしんねえ」  明の言うとおりだ、と愛は装束を探そうとしたが、ふと気づいた。  自分は魚座の大魔導衣なんて見たことがない、と。 「魚座の魔装束って、どんな色をしてるの?」 「本で見た限りだと、水色だったぜ。あと、背中に魚の刺繍があった」 「そのまんまだね」 「そうだな。ちょっとひねりが足りねえな。オレの蟹も、人の事言えねえけど」  明はそう言うと、くるりと回った。  蟹座の大魔導衣は、朱色。金銀の刺繍に青い色がアクセントに入っている。  背には蟹をデザインした刺繍が施されており、不思議なことに3Dのように浮いて見える。 「綺麗だね。カッコいいね!」 「よくできてるだろ」  魔導学校に関しては、うさんくさいと常日頃感じている明だが、この不思議な大魔導衣というものだけは確かに通常の自然科学では説明の付かないものだった。  もちろん手で脱ぎ着もできるのだが、心の中で思うだけでも充分脱着が可能だ。  休めと念じれば、糸にほどけて消えてしまう。  まさしく自ら意志を持っているかのような物体だった。

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