76 / 259

第一章・76

「じゃあ、私も一緒に地獄へ行く」 「なんだって!?」 「私だってもう7人も人を殺してしまったし、今まで姦淫のかぎりを尽くしてきたわけだし。充分資格はあると思うんだけど」 「いや、だけどお前それは仕方なくだろ」 「ダメ?」 「いや、ダメとかそういうことじゃなく。お前はさ、絶対天国に行かなきゃ。でなきゃ帳尻合わねえよ」  愛はこれまで生き地獄にどっぷり浸かってきたのだ。  死んでからまで、さいなまれることはないだろう。  しかし愛は、ふぅ、と乾いたため息をついてから身じろぎして言った。 「明の居ない天国より、明の居る地獄の方がきっと楽しい」  一緒に地獄に堕ちよう、と愛は明の手を握った。  明も、その柔らかい手を握り返した。  神とやらがもし居たとして、と明は考えた。  オレにここまで殺伐とした日を与え続けてきたのは、もしかしたらこいつに巡り合わせるためだったのかもしれない、と。  あぁ、一緒に地獄へ行こう、と心の中でつぶやいた。  口に出せば、また涙がこぼれそうで怖かった。

ともだちにシェアしよう!