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第一章・76
「じゃあ、私も一緒に地獄へ行く」
「なんだって!?」
「私だってもう7人も人を殺してしまったし、今まで姦淫のかぎりを尽くしてきたわけだし。充分資格はあると思うんだけど」
「いや、だけどお前それは仕方なくだろ」
「ダメ?」
「いや、ダメとかそういうことじゃなく。お前はさ、絶対天国に行かなきゃ。でなきゃ帳尻合わねえよ」
愛はこれまで生き地獄にどっぷり浸かってきたのだ。
死んでからまで、さいなまれることはないだろう。
しかし愛は、ふぅ、と乾いたため息をついてから身じろぎして言った。
「明の居ない天国より、明の居る地獄の方がきっと楽しい」
一緒に地獄に堕ちよう、と愛は明の手を握った。
明も、その柔らかい手を握り返した。
神とやらがもし居たとして、と明は考えた。
オレにここまで殺伐とした日を与え続けてきたのは、もしかしたらこいつに巡り合わせるためだったのかもしれない、と。
あぁ、一緒に地獄へ行こう、と心の中でつぶやいた。
口に出せば、また涙がこぼれそうで怖かった。
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